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その日も川底から数点の翡翠の原石を見つけて、ヌナカワは宮に帰って来た。
「姫さま、お客がお見えですぞ」
帰るのを待っていた佐川彦(サガワヒコ)が、走り出て来た。サガワヒコは家老のような仕事をしてくれている、ヌナカワにとっては従兄弟に当たる人物だった。ヌナカワは首を傾げた。今日は誰も訪れる予定はなかったはずだった。
大広間に行くと、見知らぬ男性が窓際に佇み、外を眺めていた。
ヌナカワの心臓がとくん、と音を立てて鳴った。
その男性は濡れたような豊かな黒髪をみづらに結い上げ、こちらに無防備な横顔を見せていた。
秀でた額と絶妙な曲線を描く鼻筋が、薄い影をまとっていた。大きな二重の目は黒目勝ちで、今は微笑むように少し細められている。
(なんと美しい人だろう)
美しいが女性的ではなく、線の細さは微塵も感じさせなかった。
そっと組まれた両腕は逞しく鍛えられている。肩幅も広く胸板も厚い。なのにどことなく儚げな雰囲気をまとっているのだった。
(不思議な方…)
ヌナカワは今まで男性を美しいと思ったことなどただの一度もなかった。男性は共に働き、競い合う存在だった。
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