新米タクシー今日も行く！

その２ 研修

　タクシー会社に入社が決まって、その後約一ヶ月の研修を受けました。
　『二種免許』と『乗務員証』を取得させてもらい、私は正式にタクシーに乗る資格を得ました。。
（二種免許は自動車教習所、乗務員証は地域のハイヤー協会でそれぞれ研修を受け、合格した後取得出来ます）

　そこで私はＫさんという男性に知り合いました。

　彼は今年還暦を迎えるおじさんで、他のタクシー会社で採用された人です。
　私と同じ、二種免許を取得するところからのスタートでした。

　運転免許試験所で私がボーッとしている時「免許証の交付ですよ」と呼びに来てくれたのがきっかけで、それ以来Ｋさんとはよく話すようになりました。

　彼はそれまで網走で飲み屋を経営していたそうですが、それをたたんでここ札幌に移り、タクシー会社に就職したとの事。

　しかも、ネットやハローワークを通さずに、飛び込みで決めたそうです。

　すごい度胸！！！

　人当たりのいい穏やかな話し振りからは想像できない潔さです。

「飛び込みで面接って、怖くなかったですか？」

　そう訊くと、彼は答えました。

「少しはね。でも、網走にいた時は、そうやって面接に来る人、けっこういたから」

「ああ、そうだったんですか」

　なるほど、以前は採用する側だったという事。納得出来ました。

「じゃ、どうして札幌に？」

「嫁さんの実家がここでね。なんとなくこの町好きなんだよね」

「へえ」

　生まれも育ちも札幌の私には少しうれしい言葉でした。
　でも、私はちょっと心配でした。

（地理は大丈夫かな？）

　私でさえ、これにはけっこう苦労しています。
　社内研修で少しは学べますが、それだって限界があります。

　でも、Ｋさんの人柄なら、きっとお客様が教えてくれるでしょう。

　実際新人ドライバーの場合はそれがほどんどですから。

　今でも、Ｋさんの会社のタクシーとすれ違う度に

「Ｋさん、元気かな」

　と思い出します。

　いつかすれ違ったら、大きく手をふって挨拶しよう。

　今日もそう思いながらタクシーを走らせています。