その8 リベンジ

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その8 リベンジ

 どうも私の運転はトロい様です。  確かに自分の車を運転している時は抜かれるのが普通で、追い抜く事は滅多にありません。  そんな私でも営業中は制限速度いっぱいでがんばっているつもりなんですが、お客様に「急いで!」と言われる事が多々あります。  そんな事言われてもなあ……、  と思っていましたが、それは「スピードを出せ」という意味ではなく「前に出ろ」と言う意味だという事がやっと分かりました。  そのきっかけは、一人の老紳士を乗せた時の事です。  北海道大学近くの病院でお乗せしたそのお客様は、東雁来(ひがしかりき)までの道のり約四キロを環状線を使って行って欲しいと言って来ました。  環状線は片側三車線の広い通り。時間は平日の午前十一時頃。交通量もそんなに多くありません。  そこで、私は一計を案じました。 (なるべく前に出よう)  それまでの私は車線変更をあまりしませんでしたが、それでは自然と渋滞になってしまいます。  ですから、少しでも車の少ない車線を選び、渋滞を避ける様にすれば停車時間が少なくなるのではないか。  そうすれば料金が安くなるはず。  以前にお話しましたが、タクシーメーターは停車時間が多くなると料金が高くなります。ですから、料金を安くするにには停車を少なくすればいい。タクシーを多く利用するお客様はその事を良く知っています。  そしてお客さまを乗せ『賃走』ボタンを押して、さあ出発!  今までみたく列に並ぶのではなく、少しでも並んでいる車の少ない車線に入り、とにかく前に出る運転を繰り返して行きました。  そして目的地の東雁来(ひがしかりき)に到着。  お客様にメーターを見せました。 「ありがとうございます。料金は二八八〇円です」  すると、お客様は 「わあ、今までで一番安いよ」  と驚いていました。  作戦は成功でした。 (そうか、こうやって運転すればいいのか)  ベテランのドライバーにとっては当たり前の事なんでしょうけど、私にとっては大きな気付きでした。  あくまでも安全運転が優先なのは言うまでもありませんけど。
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