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 俺・高橋文護はN県にある某寺の子である。いずれは寺を継がねばならないという立場。その為には日頃より霊力を鍛えるべきという理由で、いわば修行の一環で同N県に本拠地を置く「祓屋本舗・卍会」に入れられた。半ば、強制的に。  その卍会の紹介で、この依頼を受けることになったのだ。  それで薔介氏の指摘通りにここにやってきたのが、約1ヶ月前。それとなく情報を集めていたら、この地域には行方不明男性が多かった。俺の来る二か月前くらいから計三か月で12人。つまり一週間に一人、行方不明が出ている計算になる。  俺はすぐに吸血鬼の仕業ではないかと思った。  やがてこれまた薔介氏の言う通りに、彼女は現れた。  もうヤるっきゃないでしょ、これ。  すこぶる美人を手にかけるのは忍びないけど、ヤらなきゃヤられるのは霊能力者とモンスターとの関係。自然界の弱肉強食の掟は、ここでもしっかりと生きている。  神等薇子は、無言で頭を下げると担任をちらりと見た。  担任は察して 「あなたの席は一番後ろに作っておいたわ。とりあえず次の席替えまでは、そこでよろしくね」  穏やかな微笑みで、彼女の座るべき席を指さした。  担任の相浦せりかもかなりの美人で、男子生徒の人気は高かった。噂によると、年は26歳。ふんわり内巻きの髪を揺らして、どこか茫洋とした雰囲気がお嬢様っぽい。だが、その美人のせりか先生も、神等薇子の前では霞むようだ。 「はい」  やっと口をきいた薇子の声は、やや高めのこれまた綺麗なソプラノボイスだった。こんな声で偽りでも愛をささやかれた日には、男は……いや女だって、黙ってその首筋を差し出すだろう。 (獲物を狩るための最適な体)  クラス中の生徒が彼女をため息交じりで見つめる。ありがたくもそれに乗っかって、俺も彼女に好奇な視線を向けても何の不思議もなかった。
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