ザ・完全犯罪

1/2
前へ
/2ページ
次へ

ザ・完全犯罪

 馬鹿な奴め、と俺は目の前の檻を鼻で笑った。看守は自分を捕まえたと思って安心しきっているようだ。この冷たい牢屋に自分を一人置いて、呑気にお酒を飲んでご就寝である。  今まで幾度となく自分に脱走され、そのたびにお宝を奪われてきたことをもう忘れたのだろうか。これだからアル中はいけないのだ。酒を飲みながら部屋に帰っていった奴を、俺がいつも呆れて見ていることさえ気づいていない様子なのだから。 ――ばーか!  自分の脱獄を警戒して、檻の鍵を厳重にしたようだがそんなもの関係ない。そもそも鍵をいくら頑丈にしたところで、檻そのものに欠陥があっては意味がないのだ。 「ふんっ!」  関節がやわらかい自分ならば、この程度隙間があれば簡単に抜けられる。うにょん、と手足を、頭をくぐらせてはい脱出完了だ。まあ、鍵を壊す方法も心得てはいるが。鍵を取り付ける柵が錆びて脆くなっているのだ。少し力ずくで殴りつけてでもやれば簡単に壊れることだろう。  俺はンベ!と檻を振り返って舌を出すと、そのままスタスタとお宝が眠る倉庫へ歩き出した。この監獄に眠る史上の宝。地図はしっかり頭に入っている。広間を抜け、廊下を少し進めばすぐそこだ。  高い高い頑丈な柵を取り付けた要塞。  こんなもので守った気になっているのだから、やはりあの看守は学習能力がないと思う。 「この程度!おらっ!」  俺は助走をつけて思いきりジャンプした。脚力には自信がある。今回はうっかり転んでしまって捕まったが、単純な追いかけっこであの看守に負けた試しがないのだ。素早さも体力も跳躍力も自分の方が遥かに上だということを、奴はまだ認めたくないのだろうか。ひらり、と華麗に舞いあがり、柵を軽々越えてお宝が眠る倉庫へ。隣室で眠っているはずの看守のイビキが煩いが、それだけだ。自分の犯行に気づく気配もない。  愚か者め!と嘲笑いながら再度飛び上がる。狙うは、一番上の棚にある金庫だ。棚そのものに鍵がかかっていないことは、今までの経験上よくわかっている。  俺は目当ての箱の前まで到達すると、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべたのだった――。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加