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その通りだ。甘えるのではなく知恵を貸してもらえばいい。辰也が来る前まではその気でいたのに、いつの間にか消えていた。顔を合わせると同時にだろうかと思いながら、話を続ける。
「来るなら、そのときは早めに連絡よろしく」
「二か月先ぐらい」
すぐに動き出してもそれぐらいはかかるという。
「分かった」返して、話を変える。「ところで、何でスポーツインストラクターになろうと思ったの?」
その前は少しスポーツの得意なフリーターだった。
「気ままも良いけど何かプロになりたいと思って」
何となくで決めていまは本気になっているという。
その形は悪くないけど、私には真似ができそうにない。最初訊いたように、向いていそうなものから探したほうが良いだろう。そう真面目に考えていると、「顔怖い」と言われた。
「また失礼なこと言う」呆れた。
「仕事なら、そんなに急いで決めなくてもいいんじゃない?」
「そういうわけにも…」
「二人暮らしなら助け合えるし」
「さっき二か月先だって言ってたよね」
「節制すれば何とか。俺がいたときそうだったじゃん」
「そうだけど…」
「なら、そういうことで」
気を抜いて行こう、と言う。
早速助けられている。辰也が部屋に来たときと同じような気分。振り出しまで戻ったようなものだけど、経験を積んだ分だけ違いはある。振り出し一歩手前といったところだ。
振り出しと似たような景色からまたやり直しとなるけど、辛くはない。どう転がっても二人で協力し合う限りは大丈夫だろう。
浮かんだ考えが彼の軽さがうつったような中身で、自分に呆れながらも悪くないと思った。
帰ろうとする彼を素直に送る。
「ありがとう」
「何? 怖いんだけど」
礼を言うと、また失礼なことを言ってきた。
「怖いならもう来ないで」
「何で」
「冗談。また今度」
今度は辰也の引っ越し前になるだろうか。彼は「また連絡する」と残して部屋を出て行った。
ドアが閉まる。
その音を何故か寂しいと思ったのは多分彼が騒がしいからだろう。やっぱり私とは真逆だ。これからこの部屋にもう一度物が増えて、その意味でも騒がしくなる。
活気づけば自分も明るくなれるだろうか。そうなれば良いと思いながら、辰也が蹴飛ばしてしまった靴を整えた。
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