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「どこに行ってたの雄黄! お母さんが大変なの。台所でつまづいて、あ、大丈夫よ、少し頭を打ったらしいんだけど、2、3日入院すればいいんですって。明日病院に行きましょうね」
(生きてる!)
それだけで充分だった。
どうやら自分は今、母と共に祖父母の家に住んでいるらしい。
母は好きだった仕事を続けているようだ。
床の間に仏壇があり、
そこに、あの父の写真があった。
あいつのためにわざわざ仏壇を買い、写真を飾っている。それはつまり、
母がまだあいつの本性を知らないうちに、あいつが死んだということだろう。
これから先ずっと、母はあいつの上っ面を本物だと思い続け、
祖父母のことも、何かあれば絶対に助けてくれる誠実な人物だと信じ続けて生きるのだ。それがいいのか悪いのか‥‥‥。
携帯が鳴る。浅緋からだった。
「そっか、じゃあうまくいったんだね。良かった」
「ありがとな。浅緋のおかげだ」
「うん」
「どうかしたか?」
「さっきの男の子のことなんだけど」
嫌な予感がした。
「結果と経過、どっちから聞きたい?」
「経過、必要か?」
「一応」
「わかった」
雄黄は奥歯を噛み締めた。
間に合わなかったと、浅緋は小さく答えた。
「あの男の子ね。身体は小さかったけど、小学一年生だった。早生まれだったんだね。大人ってどうしてだか、園児が、特に男の子が小学生になっただけで、何でもできるようになると思うんだね。お母さん以外は‥‥‥。
お母さんは心配だからそばについてるって言ったのに。
あの子のお父さんとおばあちゃんが
(大丈夫よ。お友達も一緒なんだし、もう小学生なんだから)
(目と鼻の先の公園じゃないか。そんなに過保護にしてどうするんだ)
そう言って一人にさせたんだって。
あの男の子、やっぱりすぐに心細くなって
お迎えの時間まで待てなかったらしい。
一人で帰ろうとしたんだけど、地方の公園で言う『すぐ近く』は子供にとって近くじゃない。
迷子になっちゃって、あわてて歩き回って。よけいわからなくなって。
怖くなってすごく走って何かで怪我して。
何とか公園には戻れたんだけど、もう暗くなってて。
早めに迎えに来たお母さんともすれ違っちゃって。
寒くて、足もどんどん痛くなって‥‥‥。
(子供のことはおまえが一番わかっていただろう!)
(母親のくせに‼)
お母さん追い出されちゃったんだって。
何でもかんでもお母さんのせいにして‥‥‥。お母さん‥‥‥かわいそうだよ‥‥‥かわいそうだ‥‥‥この子も
‥‥‥」
浅緋?
電話口で雄黄は固まる。
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