晦冥ーかいめいー

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浅緋(あさひ)も気づいた。 「うん。前の人ね、なんだかみたいに細くって、すぐ怒って 嫌な感じのおじさんだったの。どうしてあんな人と結婚しちゃったのかな」 「深雪(みゆき)、前にここに来たことあるのか?」 「うん。雄黄(ゆうおう)お兄ちゃんを追いかけて来たの。急にいなくなっちゃうんだもん。すぐ追いかけようと思ったのに、大っ嫌いなおばさんがお見舞いに来ちゃって‥‥‥そのせいでちょっと失敗しちゃった」 「失敗?」 「深雪がここに着いた時、お兄ちゃん、どこかに行くところだったの。呼んだんだけど、聞こえなかったでしょう? そのあと、待ってたんだけど」 雄黄は戻ってこないし、深雪は急に心細くなった。 全く知らない場所にひとりぼっちでいることに、初めて気が付いたのである。 (お家に帰ろう。あ、パパもママも病院だっけ) とても寂しくなった。そんな時、ふと視線を感じてそちらを見ると、 優しそうな女の人がいた。深雪と目が合うと、にっこりと笑ってくれた。 けれどその人は、目が真っ赤だった。すぐに下を向いて、ガーゼのハンカチで顔を覆ってしまう。その時、別の視線を感じた。 すぐ近くの自販機の傍から、じっとこの女の人の様子を(うかが)っているおばさんがいる。大きく目を開いて。面白そうに口の端を上げて。 (この人、堀口さんとおんなじだ!) 苛立ち、怒り、憎しみ、敵意。小さな深雪が抱いた感情で、それらに一番近いものがあるとすれば‥‥‥ (退治!) 深雪はそのおばさんに近づいた。 (俺が浅緋のところに行った時か) 雄黄は言いようのない不安に襲われる。 自分はとんでもないことを忘れていた。 普通の子供と違う力を使えても、深雪はたった4歳の女の子だった。 覚えたての魔法を使おうとして怪我をしたり、迷子になることだってあり得るのだ。 「戻ろう」 「待って雄黄。確認するんなら、ちゃんと全部終わらせないと」 浅緋が静かに(たしな)める。 「大丈夫。僕も深雪ちゃんについているから」 浅緋はやはり察しがいい。 「わかった」 三人は、あの男の子が住んでいた家に飛んだ。 「どこだ? ここ」 全く知らない家の物置に出てしまった。 「うん‥‥‥と」 浅緋が思案する。 「僕は覚えてないからなぁ。たぶん、あの子の家から、一番近い誰かの家なんだろうね、ここ」 だが、周りには何も無い。 「ほんとにここ? 深雪もためしてみる」 「いやっ! いいよ大丈夫だ」 浅緋と雄黄が思わず止める。 間違いない。あの男の子の家は、もう存在しないのだ。
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