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再会ーさいかいー
「おふくろ、ちょっとこいつ送ってくる」
増田雄黄は和泉浅緋と公園までの道を歩いていた。
「八年だね」
あの感動的な別れの後、深雪は結局何度か会いにやって来た。
ちゃっかり浅緋に宿題を教わったり、雄黄に悩み事を相談したり。
彼女なりに考えてはいるらしく、二人の周りに誰かがいる時はすぐに帰る。
三人がこっそり会える日を、いつしか浅緋がセッティングするようになった。
ある日深雪が言った。
魔法が使えなくなったと。
浅緋の部屋に、久しぶりに三人で集まった時、深雪がぽつりと言ったのだ。
「この往復が最後になると思う」
深雪は、初めて出会った時の雄黄達と同じ年令なっていた。
「魔法って、とても優しいのかもしれない。使いすぎて身体がボロボロになるとか、取り返しのつかなくなる前に教えてくれるのかも。それにね、私思うんだ」
八歳になった深雪は、もう自分のことを名前では呼ばない。
「魔法は使う人を選んでる。小さな子供、お母さん思いのお兄ちゃん、
良い人だった浅緋お兄ちゃん、それに、子供を助けたかったあのお母さん。
そういう人達の中で、偶然魔法を持つ人と出会えた人。そう言う人しか受け取れなくて‥‥‥」
「今、私おばあちゃんにもらった力で嫌いな奴をやっつけたいとか、嫌いなものを壊したいとか思っちゃうから。おばあちゃんの魔法は悪いことには使えないんだよ」
「それ、大きくなれば普通のことだぞ」
「僕も嫌なこと考えることはあるし、あまり気にしなくてもいいと思うよ」
全ての人が魔法を持つことも持ち続けることもできないのは、そうして人の世界が保たれるように、魔法そのものがバランスを取っているからかもしれない。魔法を使う人が、いなくならないように。
「だから私、たぶん‥‥‥」
もう来られない。
三人は黙った。
風が、カーテンを少し揺らした。
青い空が見えた。
「こっちに居る深雪ちゃん、探す?」
「やだ‼」
「だよね」
「だよな」
雄黄の同意に、浅緋が少し驚いた。
「わかってもらえちゃうのも複雑なんだけど」
深雪が苦笑する。
「こっちの私、お兄ちゃん達よりずっとおばさんでしょ? そんなの会ってほしくないって思ったり、でも」
でも? ‥‥‥雄黄と浅緋は、深雪の思いを考える。
「よしわかった」
「安心して。探さない」
「絶対だよ」
「約束」
「でね? でね?」
二人が小指を差し出そうとするのを押しとどめ、深雪が言う。
「決めたの! 一回。一回だけ、こっちで会いに来る」
「え、一回だけって深雪」
「せっかくおんなじ平成で会えるんだからもっと」
「まず一回! ‥‥‥ちょっと、先になっちゃうかも、しれないけど」
深雪は決心したように言った。
「その時の深、深雪、すごいおばあさんみたいかもしれない。でも、絶対驚かないって約束してくれる?」
「驚くわけねぇよ」
雄黄が優しく言った。
「可愛いばあちゃんいっぱいいるじゃん」
「綺麗なおばあちゃんもいっぱいいる」
浅緋も笑って言った。
「僕達、深雪ちゃんならいつ、どこで会っても絶対にわかるって言ってたんだよね」
「女の子だからなぁ。いろいろあるんだろうけど。やっぱりこっちで会いたいなって話してた」
雄黄が懐かしい言葉を贈った。
「そうしたら、いつでも来られるだろ?」
一回なんて、たった一回なんて言わなくていい。怖がらなくていい。
深雪の顔が輝いた。
「約束!」
三人は今度こそ指切りをして別れた。
三人の親友が、初めて出会って八年。
二週間ほど前、二人に手紙が届いた。
「会いたい」
今日がその約束の日。
もうすぐ公園だ。
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