24人が本棚に入れています
本棚に追加
「! ‥‥‥ん!?」
「深雪、ちゃんのはずないよね‥‥‥」
身体の大きくなった三人は、さすがにもう滑り台の中には入れない。
(そんな三人いたら怪しいよね)
(だったらそこの傍に、早く着いた方が立っていればいいか)
そう言ってみんなで笑った。
今その場所に、間違いなく立っている女性がいる。
が、彼女は自分達よりせいぜい七、八年早く生まれたようにしか見えなかった。
偶然居合わせた他人にしては、その面立ちはあまりにも深雪を思わせるもので。まさか‥‥‥
「わかんないよ! ‥‥‥そうと決まったわけじゃないよ」
察しが良すぎる浅緋が、顔色を変えて下を向く。
二人に気付いた女性は、真っ直ぐこちらに向かって歩いてきた。
「あなたは、眼鏡をかけているから浅緋君。君が雄黄君ね?
初めまして。私、宮崎苺花と言います」
言いながらすっと手を差し出す。
雄黄と浅緋は顔を見合わせ、戸惑いながら、雄黄が握手に応える。
「ってーーーーッ‼」
「ゆ、雄黄ッ!?」
あわてる二人に、苺花は声を出して笑った。
「やっぱりね! お母さんが言っていた通り、君が先だったか」
「お、お母さん‥‥‥」
雄黄がかすれた声を出す。
「じゃあ、やっぱり君、いえ、先輩は」
浅緋がたずねる。
「あら礼儀正しい。生徒会とか入ってる人?」
「めっそうもない、じゃなくて」
「そう。私、旧姓相原深雪の娘です」
「そうじゃなくて」
「深雪っ! なぁ深雪は!?」
雄黄が割って入る。ここに娘が来たと言うことは、深雪はもう‥‥‥
苺花は静かに笑った。
「ほら、いい加減決心ついたでしょう?」
苺花が滑り台の後ろを振り返る。
「ね? あの時やっぱり私がいて良かったでしょう?」
今でも苺花は得意げに言う。あの後は大騒ぎだった。
滑り台の後ろから、自分達の母親より少し年上くらいの、品の良い女性が
覚悟を決めて出てきた時、
「ばかやろう~っ! ‥‥‥俺、てっきり」
雄黄はすかさず抱きしめてしまっていた。
「良かったぁ本当に良かったよぉぉ」
後から飛び込んできた浅緋と共にわんわん泣いて、周りのお年寄りや親子連れに何事かと注目され、散歩に来た犬も吠えまくった。
「私がいなかったら、けっこうまずかったよね? あれ」
思い出してまた笑う。
苺花は暇を見つけては、けっこうな頻度で二人に会いにやって来た。
お土産と一緒に、今はもう大きくなった深雪の、優しい伝言も携えて。
八年目のあの日の後、深雪は本当に一度も会いに来なかった。
雄黄達の方から行くと言ってもやんわりと断り、全てを苺花に任せた。
素晴らしい思い出は、あの日一日で充分にできたからと。
最初のコメントを投稿しよう!