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「お代わりいります?」
「ありがとお願い。浅緋君のお茶、ほんっと美味しい」
「いえいえ」
(淹れ方ずいぶん勉強してたもんなぁ。こういうところ、やっぱり浅緋なんだよなぁ)
雄黄は感心してしまう。
苺花が話し始めた。
深雪は八歳になって、程なくして魔法が使えなくなったと言っていた。けれど、二人との『約束』があったから、淋しくはなかったそうだ。
母の中には魔法の欠片のようなものが残っていて、その力で生涯の伴侶を見抜き、新しい命も授かった。
「私が独り立ちした時、『はなむけ』にって、その欠片を贈られたんだけど‥‥‥なんかキャラじゃないって言うかね、こういうの。
正直おっかなくて。
大切な思い出の住人達になら渡していいって言うから。で、その時お母さんが言ったの」
(最初に手を差し出した方に受け継いでもらうといいわ。たぶん、雄黄お兄ちゃんだと思う)
雄黄は、大きくなった深雪が言ったことを思い出していた。
(恥ずかしいのだけれど、あの頃、私、本気で雄黄お兄ちゃんのお嫁さんになるって決めていたのよ)
けれど、大きくなってお洒落も勉強もしたら、たくさんの『できないこと』を知ってしまった。
(最後にお兄ちゃん達と別れた時より、それが一番悲しかったかもしれない。でもね、今はとっても幸せなの。ちょっとぽっちゃりした私の旦那様。
私を世界一安心させてくれるのよ)
大きくなった深雪はふんわりと笑い、夫婦で写っている写真を見せてくれた。
「でも、何で?」
ケーキをほおばりながら苺花が聞く。
「もともと僕の方が、割り切って持っていられるんで」
差し出されたカップにもう一度お茶を淹れてあげながら、浅緋が答える。
「そっかー、もともとヘビーな才能あるんだもんね。今も見えてるの?」
「言っていいんですか?」
「やめて」
「あの、深雪‥‥‥さんに謝っといてもらえますか?」
「了解。理由きかせてもらっていい?」
雄黄は、受け取った欠片を浅緋に譲ったのである。
「もし使えたら、すごく悪いことをしてしまいそうで」
「それなら大丈夫でしょう? 邪な気持ちを自覚しているんなら魔法は最初から使えない。こっぴどく失恋した時の私の体験だから間違いないよ‥‥‥あんのやろー‥‥‥」
「え? 先輩誰かイタッ!」
浅緋が苺花に小突かれる。
「使おうとしたってだけでも、深雪に申し訳ないから」
「わかった。今でも深雪思いだね。お母さん、喜ぶよ」
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