再会ーさいかいー

4/4
前へ
/30ページ
次へ
 駅で苺花(まいか)を見送った後、 雄黄(ゆうおう)浅緋(あさひ)は別のホームまで歩く。 「ごめんな。」 「命の恩人の頼みじゃね。大丈夫。僕だってもう使えないよ。高校男子なんてみんな私利私欲の(かたまり)みたいなもんだからね。 雄黄が助けてくれたから、僕は苺花先輩にも会えた。このは大事に取っておいて、いつか自分の子供にでも贈るよ」 「それって(まい)イテッ!」 「そういうとこな、雄黄」 「(わり)」 「でもそうなれたらいいな。それが目下(もっか)の僕の目標。これも私利私欲かなぁ」 浅緋は本当にいい奴だと思う。男の子に憑りつかれたのも、火事に()うところだったのも俺のせいだ。 それでもこいつは、「助けてくれた」と言う。 「僕ね、小さい時からってことで本当にヘビーな経験積んでるんだよ。だからね? そこから導き出した答えがね?」 その時の『良かったこと』だけを覚えておくこと。 浅緋はそう言って笑った。 「おまえ、よく見るとイケメンだな」 「なに急に」 「いやいやいや。でも、何かあったら俺、絶対に力になる。いつだって。どこでだって」 「うん。雄黄は嘘つかないからね。すごく心強い。だからね」 「だから?」 「及ばずながら、今は僕が力になるよ。もう一回僕ん()来て思いっきり話してから帰れば? いや、なんなら泊まってく?」 「浅緋‥‥‥」 「雄黄は嘘がつけないからなぁ。顔、強張(こわば)ってる。家にはいつだってが居るんだもんね。正直僕が会った感じだと、あの人達はいい人だと思う。前の人達とはたぶん違うと思う。でも、君だけが覚えてる人生最大の(かたき)と、姿かたちは一緒なんだもんね」 「‥‥‥何…つうか、情けないよな‥‥‥」 「いいや。僕も深雪(みゆき)ちゃんも、苺花先輩も、絶対そうは思わないよ。 その時の雄黄は何もできない小さな子供だったんだから。助けることができたはずの大人が、ちゃんと助けてあげなきゃいけなかったんだ」 浅緋はきっぱりと言ってくれた。雄黄は考え、両手で浅緋の手を握った。 「ありがとう浅緋。俺、まだ大丈夫みたいだ」 少し驚いたようだったが、浅緋もすぐに笑った。 電車の中で、雄黄は静かに目を閉じる。 ごめんな。じいちゃん、ばあちゃん。俺、まだ忘れられないんだよ。 あんた達が言った『きれいごと』で、俺や母さんがどんなに苦しんだか。 あの間抜けな間違い電話で、母さんがどうなったか。 でも、こっちの世界のあんた達は別人かもしれないもんな。 やってみる。 浅緋が言ったこと‥‥‥。 やってみようと思う。 『良かったこと』だけを、覚えておくこと。 どれだけ続けられるか、まだわからないけど。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加