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駅で苺花を見送った後、
雄黄と浅緋は別のホームまで歩く。
「ごめんな。」
「命の恩人の頼みじゃね。大丈夫。僕だってもう使えないよ。高校男子なんてみんな私利私欲の塊みたいなもんだからね。
雄黄が助けてくれたから、僕は苺花先輩にも会えた。この宝物は大事に取っておいて、いつか自分の子供にでも贈るよ」
「それって苺イテッ!」
「そういうとこな、雄黄」
「悪」
「でもそうなれたらいいな。それが目下の僕の目標。これも私利私欲かなぁ」
浅緋は本当にいい奴だと思う。男の子に憑りつかれたのも、火事に遭うところだったのも俺のせいだ。
それでもこいつは、「助けてくれた」と言う。
「僕ね、小さい時から見えるってことで本当にヘビーな経験積んでるんだよ。だからね? そこから導き出した答えがね?」
その時の『良かったこと』だけを覚えておくこと。
浅緋はそう言って笑った。
「おまえ、よく見るとイケメンだな」
「なに急に」
「いやいやいや。でも、何かあったら俺、絶対に力になる。いつだって。どこでだって」
「うん。雄黄は嘘つかないからね。すごく心強い。だからね」
「だから?」
「及ばずながら、今は僕が力になるよ。もう一回僕ん家来て思いっきり話してから帰れば? いや、なんなら泊まってく?」
「浅緋‥‥‥」
「雄黄は嘘がつけないからなぁ。顔、強張ってる。家にはいつだって彼らが居るんだもんね。正直僕が会った感じだと、あの人達はいい人だと思う。前の人達とはたぶん違うと思う。でも、君だけが覚えてる人生最大の仇と、姿かたちは一緒なんだもんね」
「‥‥‥何…つうか、情けないよな‥‥‥」
「いいや。僕も深雪ちゃんも、苺花先輩も、絶対そうは思わないよ。
その時の雄黄は何もできない小さな子供だったんだから。助けることができたはずの大人が、ちゃんと助けてあげなきゃいけなかったんだ」
浅緋はきっぱりと言ってくれた。雄黄は考え、両手で浅緋の手を握った。
「ありがとう浅緋。俺、まだ大丈夫みたいだ」
少し驚いたようだったが、浅緋もすぐに笑った。
電車の中で、雄黄は静かに目を閉じる。
ごめんな。じいちゃん、ばあちゃん。俺、まだ忘れられないんだよ。
あんた達が言った『きれいごと』で、俺や母さんがどんなに苦しんだか。
あの間抜けな間違い電話で、母さんがどうなったか。
でも、こっちの世界のあんた達は別人かもしれないもんな。
やってみる。
浅緋が言ったこと‥‥‥。
やってみようと思う。
『良かったこと』だけを、覚えておくこと。
どれだけ続けられるか、まだわからないけど。
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