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邂逅ーかいこうー
「ただいま」
あら? 買い物から戻った沙雪は耳をすませた。
いつもはすぐに顔を出す深雪が、義母の部屋で何か熱心にしゃべっている。
(絵本でも読んであげているのかしらね)
沙雪は微笑むと袋の中身を適当に仕分け、奥の部屋に向かった。
「おばあちゃんが楽しく〇ねますように楽しく〇ねますように。あ、ママお帰りなさい。今呪文中だから、邪魔しないでね」
無邪気に笑う娘に、沙雪は顔を強張らせる。
「あなた何を言ってるの‥‥‥」
「だから呪文なの。おばあちゃんが唱えなさいって」
続けようとする娘を遮り、沙雪は義母に近づいた。
「お義母さん?」
菫は既に亡くなっていた。
床に伏してから二年。辛さを隠して深雪の前ではいつも笑っていた祖母は、それはそれは穏やかに。
「お義母さん! お義母さん! お義母さん!」
「‥‥‥ママ?」
母のただならぬ様子に怖くなった深雪は、おずおずと母に近づいた。
いきなり肩をつかまれ、ぐいぐいと揺さぶられる。
「あなた何をしたの!?」
「えと、ええとおばあちゃんに魔法をもらったの。ほんとはママにあげたかったんだって。でもダメだったから深雪にくれたんだって。ママにありがとうって」
「いいかげんにしなさいっ‼」
深雪を突き飛ばし、沙雪はその場に座り込んだ。
(どうして今日なの‥‥‥)
夫は手伝ってくれたけれど、夜はぐっすり眠ってしまう。
仕方ない。けれど、私だって眠りたかった。
たまに手伝われても、いくら励まされても、私は休めるわけじゃない。
ついさっき、わずかな心の隙間に、他人の安っぽい探りを受け入れてしまった。
「大丈夫? 相原さん。すごく疲れているんじゃない?」
しゃべりだしてしまった。まるで誰かに口を乗っ取られたように。
自分とは思えないような負の言葉を、次々と吐き出してしまった。
こんなことなら、今日まで我慢すればよかったのに。
文句ひとつ言わずに義母を看た、いい妻で、いい嫁でいられたのに。
あと一日、どうして我慢できなかったんだろう。
「ママ‥‥‥」
顔を覆ってうずくまる母に近寄った娘を、沙雪は激しく睨みつける。
「あっちへ行きなさい! あんたなんか知らない!」
「ママ、ママ」
「だからあっちへ行きなさいって言ってるでしょう!? あんなひどいこと言う子知らないっ!」
「ママ、ママ、ママ」
「うるさい黙ってっ‼」
八つ当たりだ。わかっていても沙雪は自分を止められなかった。
「ママ‥‥‥きらい‥‥‥」
激しい痛みが走った。
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