ー邂逅その後ー

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ー邂逅その後ー

 深雪(みゆき)の父は、娘と共に病院にいた。 娘の頭を撫でながら、眠っている妻の手をそっと握る。 亡くなった母に苦しんだ様子は無く、危なかったのは妻の方だったと聞かされた。 「深雪。さっきのお兄ちゃんはどこだい? ちゃんとお礼を言わなきゃならないからね」 「もう帰った」 「えっ? 困ったな、お家とかわからないか? ご両親にも挨拶したいんだが」 「わかんない。でもちゃんとお礼したよ」 深雪は少し前のことを思い出していた。 「ありがとうお兄ちゃん。お礼に魔法あげる」 「いいよ別に。良かったな」 「あげる。深雪もういらない‥‥‥」 「なんで。あ‥‥‥ばあちゃんか?」 雄黄(ゆうおう)はできるだけ優しくたずねた。深雪は泣きそうになりながらうなづいた。 「あのな、ばあちゃんは寿命だったんだよ」 「じゅみょう?」 「ずっと病気だったんだろ? そういう人は死ぬとき自分でわかるんだって。 だから大好きな深雪に応援してほしかったんだよ」 「ほんとに?」 深雪は顔を少し輝かせたが、またすぐ泣きそうになる。 雄黄はできるだけ明るく言った。 「おまえの母さんはすっごくいい人なんだよ。だから、おまえの大好きなばあちゃんがあんなふうになってるのを見てパニックになっちゃったんだ」 「ぱにっく?」 「びっくりしすぎて変なことやっちゃったりするんだよ。人によっては心臓止まっちゃうこともあるぐらい」 「じゃあ、じゃあママもおばあちゃんも深雪のせいじゃない?」 「心配すんな。お前が使った魔法は一個だけだ」 「一個だけ?」 「俺を召喚したろ?」 「んん~」 「本当だって。俺未来から来たんだぜ」 「んん~」 「じゃあな。そろそろ俺、もとのところに帰してくれるか?」 「帰っちゃうの?」 「一応な」 あの時すぐに救急車を呼べば、母さんも助かっただろうか。 気が抜けたのか、涙が急にあふれ出してきた。帰ったって母さんはいない。 でも‥‥‥ 深雪のノートを見た時、冗談だと思った。ー昭和41年O月O日生まれー ここに自分の居場所は無い。ここにいたら、母さんがどうなったかもわからない。 「だめ、帰っちゃだめ」 頼もしかった雄黄が泣き出したのを見て、深雪も泣きながら彼の服をつかんだ。 「帰りたくないんでしょ? ここにいれば? パパに話すよ、泊めてくれるよ」 不思議だ。こんなに悲しいのに吹き出してしまう。 「ありがとな。なんかあったらまた呼べ。すぐ来てやるよ」 「絶対?」 「‥‥‥うん」 根が正直な雄黄は嘘がつけない。 「やっぱもらうわ、魔法。全部じゃなくていい。少ぉしだけもらえるか? そしたらおまえに呼ばれなくても、いつだって来られるだろ?」 深雪は嬉しそうに雄黄の手を握った。お兄ちゃんがちゃんと痛がりますように。 (すごい‥‥‥) 手をさすりながら、雄黄は深雪と顔を見合わせて笑った。 わかる。どの扉が(つな)がったのか。 雄黄はそれを自分の手で開いた。選んだ扉は光り、一面に白い煙が舞う。 帰れる! そう確信した時だった。 (助けて、息子を助けて) (やべ!) 聞いてしまった途端、雄黄は扉の中に消えた。 「お兄ちゃん‼」 「深雪?」 父の呼ぶ声が聞こえ、深雪は仕方なく、母の病室に戻ったのだった。 しばらく母の寝顔を見ていると、背後で嫌な声がした。
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