浅緋ーあさひー

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浅緋ーあさひー

 (まいったな) 和泉浅緋(いずみあさひ)は途方に暮れていた。   電車で寝入ってしまい、一度反対方向に乗り換えてみたのだが、いくら行っても聞き覚えのある駅に着かなかった。塾に通い始めて半年。だいぶ慣れてきた矢先、うっかり携帯は机の中。あれほど確認しなさいって言われてたのにな。もう一度降りて経緯を話し、家に電話をしてもらおうとしたのだが、浅緋はその番号すら記憶していなかったのだ。 困った駅員さんは、浅緋の知る駅に向かう電車を教えてくれた。そこでもう一度相談するように言われたところである。 時間も遅くなってしまったし、両親も相当心配しているに違いない。 「すみません。トイレいいですか?」 用を足し、手を洗いながら考える。 (帰ったらいっぱい謝らなきゃ。こりゃしばらく夜はゲーム禁止かな) いきなり用具室が開いた。浅緋は悲鳴を上げて防犯ベルの紐を引く。 「誰だっ!? 誰もいなかったはずなのに」 「OFFになってる」 「え?」 「俺も同じの持ってるから。それ、スイッチ右にしないと」 (しまったぁぁ!) 「言っとくけど俺怪しくねぇから。まさか子供を誘拐犯とか思ってないよな」 雄黄(ゆうおう)はつかつかと浅緋に近づき腕をつかんだ。 「だ、誰が誘拐犯じゃないって?」 「行くぞ、おまえの母さんボロ泣きで見てられねえ」 そのままさっさと用具室に向かう。 「だからどこ行くのッ!? あ! (さわ)れる幽霊はあぶないって本で読んだぞ!」 雄黄は黙って扉を閉めた。
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