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7 人魚とケンタウロスと、小鳥ともぐら
キフル川でひとしきり水に浸った後、生き返った思いで岸に戻った。
「君、本当にカエルだね」
感心したような囀りが降ってきた。翡翠色の小鳥は、川べりに長く伸びた葦の葉先に止まっていた。
「バーバリアンは、カエルの国だ」
誇りをもって、俺は答えた。父さんにもカエルの誇りを忘れるな、って言われたし。
アミルは首を竦めた。
「誤解しないでくれよ。とてもきれいだって思ったんだ。まるで、緑色の宝石のようだ」
「エメラルドだね? 時々、ルイーゼが胸に飾ってる」
俺の後ろで声がした。川から上がってきたラフィーだ。もぐらも、水浴びをするのだそうだ。実際、彼の泳ぎは素晴らしかった。まあ、俺には敵わないけど。
「ルイーゼは、ケンタウロスなんだよ」
俺を気遣ってか、ラフィーが教えてくれた。
「そして、シャルロットは、人魚だ」
「人魚?」
彼女が椅子に座りっぱなしだったことを、俺は思い出した。そういえば、シャルロットは、長いスカートを穿いていた……。
人魚か。だから、獣人である俺やアミル、ラフィーの言葉が通じるのだ。
それにしても。
人魚とケンタウロスと。こちらは、女性だ。
小鳥ともぐら。彼らは、少年。
ロンウィ将軍のハーレムは、いったいどうなっているのだろう。
というより、彼の嗜好は?
ひとつ確かなことは、ここにいるアミルとラフィーは、発情前だということだ。
だって、小鳥ともぐらの姿のままだから。
カエルのままの俺と同じく。
つまり、2人は、将軍と、ヤってない。
それだけで、信用できる気がした。
シャルロットとルイーゼがどうなのかは、わからない。「形の獣人」である彼女らは、生れた時から死ぬまで、人魚であり、ケンタウロスの姿だ。
シャルロットもルイーゼも、随分セクシーだったと、俺は思った。シャルロットは控えめだけど、形が良かった。ルイーゼは、凄く大きくて、服からはみ出そうだった。
つまり、胸が。
種族はどうであれ、2人とも、スタイル抜群の女の子だ。
将軍は、きれいな女の子が、好きなんだ。
そう思った時、なぜか、ちくちくと胸が痛んだ。
ん?
なんで?
俺は、捕虜だぞ? それに、初対面の印象は、最悪だった……。
「シャルロットはいいけど、ルイーゼの話なんかするなよ」
不機嫌な声で、アミルが言った。
「さっき、僕のことを踏みつけようとしたんだぞ?」
「それは、君が、ロンウィ将軍を独り占めするからだろ? 君は、いつだって、ロンウィ将軍の上を飛んでるじゃないか」
すかわず、ラフィーが言い返す。
「僕は役に立つからね!」
小鳥のアミルは胸を張った。小さな鳥だが、立派な鳩胸である。
「君たちは、ロンウィ将軍のこと、好きなのかい?」
俺が尋ねると、ふたりそろって、目を丸くした。まあ、もぐらも鳥も、元から目が丸いのだが……。
「あの人を嫌いなやつっているのかい?」
アミルが言う。そういえば、同じようなことを、さっき、ルイーゼも言っていた。
負けじと、ラフィーも言い添える。
「部下の兵士たちはもちろん、敵方の将軍だって、彼に会いに来るんだぜ」
「なぜ?」
「なぜって、将軍が、ステキだからさ!」
アミルが翼を広げ、俺とラフィーの頭上を、ぐるぐると回り始めた。
ものすごく嬉しそうで、はしゃでいる。ロンウィ将軍のことを自慢するのが、嬉しくてたまらないのだ。
翡翠色の光の渦のようで、とても魅力的だ。思わず、俺は言った。
「君、その言い方は、危険だよ……」
「どこがさ」
「どこって……」
将軍に襲い掛かられたらどうする!
「将軍は、高潔な人だ。だから、敵味方問わず信用されているし、愛されてもいるんだ」
ラフィーが言い添えた。
俺は納得できなかった。
ハーレムに女性や少年を囲っている男の、いったいどこが、高潔なのだろう……。
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