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1 愛……
「俺の為に死ねるか?」
皇帝ナタナエレ・フォンツェルはそう言って、ゆうべの伽の相手を見た。
「はい」
ロンウィ・ヴォルムスは、即座に答えた。
ロンウィは、優秀な将校だ。若き皇帝、ナタナエレに心酔している。彼が本気で自分に命を捧げるであろうということは、ナタナエレにもよく、わかっている。
それでも皇帝は、問いを重ねずにはいられなかった。
「俺のために、銃弾をその胸に受けることができるかと聞いてる」
「いつでも準備はできております」
ロンウィの答えは、まっすぐだった。彼の生き方、そのもののように。
「それが、味方の弾であってもか?」
「はい。ただ……」
珍しく、ロンウィが言い澱んでいる。少しためらい、彼は続けた。
「私は、わが兵士を愛しております。兵士達もまた、私を愛しています」
だから、味方に撃たれることなどない、と言いたいのだろう。
それが問題なのだと、ナタナエレは思う。ナタナエレ・フォンツェルは、将校から成りあがった、軍人皇帝だ。
……兵士たちは、皇帝である俺より、軍の司令官の方を愛している!
浴布を手に、ロンウィが立ち上がった。朝日に素裸を晒す。彼は、少しも臆することなく、皇帝を見下ろした。その体のあちこちに、白い傷痕が光っている。背中にはひとつもない。彼は、決して、敵に背を向けることはない。
将軍の背丈は、皇帝より少し低いはずだった。だが、その影は黒々と、皇帝の前に立ちはだかって見えた。
皇帝を見下ろし、彼は言った。
「私は、誰よりも、あなたの栄光を望んでいる。私ほど、あなたを愛している者はいない」
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