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ヤカーの女王
帰宅した直人を待っていた郁美は夕方に見たテレビニュースの話をした。
「あなた、ほら、お義母さんが嫌っていたって理が教えてくれた園芸農家を覚えている?」
「ああ、お袋の鉢植えを引き取っていった奴だろ?名前は忘れちゃったけど」
「結城園芸よ」
「そうだ。結城園芸。なんか小ずるい感じの男だったな」
「その結城園芸の社長が亡くなったのよ」
「なに?」
さっきまでフリーライターの村松からオカルト話を聞かされ続けたせいか、直人の反応は早かった。ものすごい形相で郁美を睨みつけて思わず大声を上げてしまった。
「いつのことだ!」
「なに?びっくりした!」
おおげさな直人の挙動に驚いた郁美が胸をおさえた。
「どうしたの?そんな怖い顔をして」
「いや、知り合いが死んだなんて、ちょっと信じられなくてな」
「殺されていたそうよ」
「どこで?」
「ほら、町はずれに竹山って小高い丘があるじゃない」
「潰れた会社の社員寮が建っていた?」
「そう。廃屋になっているその社員寮の四階で見つかったんですって」
「なんでそんなところに行ったんだ?」
「わかるわけないじゃない。からだがバラバラにされていて、肉食獣に喰いちぎられたような有様だったんですって。カラスが異様なほどそこに集まっていたので何かあったのかと巡回中のおまわりさんが様子を見に行って見つけたそうよ。それでね・・・あなた、ちょっと気持ちが悪い話なんだけど、その死体の口の中に青いバラがいっぱい詰め込まれていたんですって」
「喰いちぎられた?・・・青いバラ?・・・」
直人の頭の中で断片的な記憶が駆け巡った。
村松の言っていた、一家が皆死んで焼け跡に残されていたのはバラバラの死体。そして珠子が育てていた青いバラ。それを引き取っていった結城園芸の社長。
「でもちょっと離れているけど同じ町内でそんな殺人事件が発生するなんて気味が悪いわ。変質者の仕業かもしれないけど、さっそく明日、小学校や幼稚園では保護者会を開くそうよ」
「理の学校から連絡が入ったのか?」
「ええ。ニュース報道では流れていないさっきの話も街の噂話として拡散しているのよ。私は電話をかけてきたPTAの役員さんから聞いたわ」
「杏の学校はどうなんだ?」
「まだ連絡は来ないけど・・・」
「そう言えば、S市のケアセンターでも猟奇的な殺人があったな」
気にもしていなかった事件が頭に浮かんだ。
「そうね。S市ってあなたが引き取る前にお義母さんが住んでいたところじゃない?」
直人の顔が蒼白になった。目があちこちを彷徨い、口が半開きになり独り言をつぶやきだした。
「まさか、だが・・・確かに皆、お袋に関係のある所と人だ・・・」
「郁美、お袋の私物はまだ整理していないよな」
「ええ、お義母さんの使っていた部屋にそのまま置いてあるわ」
足が不自由になった珠子のために部屋は一階に設けていた。廊下の一番奥の部屋だ。同居を始めたとたん珠子が「嫌だねえ、なんだい鬼門の方角の部屋じゃないか」と不満を漏らした部屋だった。直人は部屋に入るとタンスの引き出しをあけて中を検めた。あまり整理されていなかったが、目的のものはすぐに見つかった。
「やっぱり!」
珠子とケアセンターが交わした契約書が残されていた。契約書の受託者は、ケアマネージャーとヘルパーが惨殺されたとニュース報道に出ていたセンターだった。そして担当者として記載されていた名前は、殺害された二人のものだった。
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