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「まさかと思うけど、高遠君はもしかして超エリートお金持ち学校出身だったの?」
どこか他人事で副店長の言葉を聞いていた俺は肯定するでも否定するでもなく、曖昧な表情を浮かべていた。
高校入学と同時に一変した高遠家のことを思うと、参加できるどころかオーダーの和装で参加できる日が来ようとは思いもよらなかったからだ。
ふと目の前の店長が壁に掛けられた時計へ視線を向ける。
「高遠、もう八時だ。上がっていいぞ。明日のためにゆっくり休め」
店長の言葉に副店長も「お疲れ様」と続けたが、まだ興味深く何か聞きたくて仕方がない顔をしていた。
「……ありがとうございます。それではお先に失礼致します。お疲れ様でした」
周りに気を遣わせてしまうから、あまり出自に関することは話さないと決めていた。
うっかり余計なことを喋ってしまったのは成人式の前日で浮き足だっていたからだろうか。
久しぶに腫れ物に扱うような自虐ネタを提供してしまったな、などと一瞬自己嫌悪に陥る。
とにかくこういう時は素早く立ち去る方が吉。
軽く会釈した俺はモヤモヤとした気持ちを断ち切るように、バックヤードへ足速に引っ込んだのである。
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