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「それより明日は会場の前に集合でいいんだよな?」
酔っ払い相手に確認するのも憚られたが、一応確認をとっておく。
『間違いないでーす。颯斗は電車で来るんだっけ?』
心織はわざと「でーす」のところをチャラ男風に語尾を上げた。酔っ払うと気持ちがすぐ軽くなってしまうこの男に、酒は呑んでも呑まれるなという言葉を自戒する。
そういえば翔琉は俺と一緒にいる時、運転手の役割があるせいか酒を呑んでいるところを見たことがない。
酒は強いのだろうか。
否、あの顔で弱いとか絶対に有り得ないだろう。
顔色一つ変えずに呑んでいるところを想像し、俺はまたすぐに大好きな男へ無理やり話題を結びつけていたことに気がつき、独り自滅した。
まずい。
これでは完全に恋するオトメだ。
まずい。
まず過ぎる。
なんだ、これ。
これじゃ俺、酒どころか恋に呑まれた男じゃないか。
恋って、酒のような酔いどれ効果があるのか?
ドキドキと心拍数が跳ね上がるのが分かる。
『おーい、颯斗くーん?』
さすがに電話の向こう側にいる心織も、黙ったままの俺を訝る。
俺を呼ぶ声にはっとし、意識を会話へ戻した。
「――悪い」
咄嗟に謝罪した俺に、心織の方が明日の確認を重ねる。
「あぁ。俺は明日、袴だから予定通り電車で行く」
『実は俺も颯斗に内緒にしてたんだけど、明日袴にしたからお揃いだな。しかも髪を超オシャレにセットしてもらうから、明日俺を見て惚れるなよ?』
面白おかしく言った心織に、電話の向こう側の人たちもけらけらと笑って野次を飛ばしている。
『惚れねーし』とか『顔が可愛すぎるからカッコつかないし』などと言いたい放題だ。心織もそれに怒ることはなく、一緒になって上機嫌に笑い飛ばしている。
酔っ払いとはいえ、さすが大らかな心織だ。
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