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だって、翔琉と一晩を何もしないで過ごすなんて……。
はっきり言って。
絶対に。
ムリ、だ――と思う。
多分。
と言うか、実家でイチャイチャするなんて恥ずかし過ぎるだろう。
「ム、ムリですって! そろそろ母様も帰ってきますし」
必死で返す俺は、受話器越しでも翔琉がニヤリと笑う気配を察する。
『……颯斗、俺はただ前乗りすると言っただけだが。もしかして、独りで厭らしい妄想でもしたのか?』
意地悪そうに尋ねる翔琉に、俺は口許を両手で押さえた。
『颯斗の想像力が逞しくて俺は嬉しい』
「ち、がっ!」
反論する俺に、翔琉は妙に優しい口調となる。
『以前から颯斗が素直じゃないのはよく分かっている。だからこそ、言葉の端や態度に現れる本音を探すのがとても楽しいのだが。現に、今のようなタイミングとかな』
「……」
『図星か?』
翔琉からの問いに俺は言葉を噤む。
ははっと翔琉は笑い、
『だったらやはり、明日の朝迎えに行くことにしよう。俺も隣りに颯斗がいて、手を出さないで朝まで過ごせる自信がない』
と言った。
俺は大人だな、と思った。
否、明日からは俺ももう。
成人式を迎えるのだから、俺も大人にならなければ。
「――狭いベッドでも良ければ、ウチに」
意を決して告げる。
『ありがとう。今夜は颯斗の気持ちだけ貰っておく』
今宵の翔琉はあっさり引く。
何故、と思ったが、明日足腰立たなくなってしまうのも困りものだ。
妄想のドキドキは明日が終わるまで取っておくことにしよう、と大人の優しさに素直に従うこととした。
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