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1. 鵺の足跡
「えー、鵺山町民の皆様。そして、日本全国の皆様。この度は、真実をお話しすると共に、深く謝罪をしなければなりません」
私はある朝、何気なく見ていたTVのニュース番組で放送された記者会見に衝撃を受けた。
画面に映っていたのは、10年前にとある噂で一躍有名になった鵺山町の町長だ。
「私たちの町がまだ村だった頃、伝説上の生物と考えられていた"鵺"の足跡が発見されました。私たちは懸賞金をかけ、それから何人もの移住者や観光客が足を運んでくれた……」
私は過去の忌々しい思い出が蘇り、頭が痛くなった。
「会社に辞表を出してきた。巌村へ鵺を捕まえに行く!」
10年前、父親はそう言って家を出てしまった。母と私にもついて来るよう言ってきたけれど、母がそれを許さなかった。
「あんた、何考えてんの?これからの生活どうすんの?鵺なんているわけないじゃない……行くのなら一人で出て行って!二度と顔も見たくない」
母の怒声を背に受けながら寂しそうに荷物をまとめる父の後ろ姿が、今でも頭の奥にこびりついて離れない。
捕まえれば2億円という破格の懸賞金が手に入る……父のように大きな夢を抱いた男たちが全国から大勢集まったというが、この10年間で誰一人として捕獲には至っていない。
中には夢を諦めてそのまま村に定住し、安定した職に就く者もたくさん現れた。その結果、人口が増えて村から町になったというわけだ。その際に、地名も巌村から鵺山町へと改名している。
父も、今頃はとっくに諦めて新しい暮らしをしているのだろうか?それとも……
「あの時の鵺の足跡も、それ以降次々に見つかった新しい手掛かりも、全ては村ぐるみで行なった捏造でした」
もし、今この瞬間まで信じていたのだとしたら、相当ショックを受けているはずだ。初めから嘘だと思っていた私でさえこれだけ動揺しているのだから。
「お父さん、今頃どうしてるかな」
家族を捨てた悪い父親。もう顔も見たくないと思っていた筈なのに。小さな村の地域おこしのための嘘に踊らされた哀れな父親に、会ってみたいと思う自分がいた。
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