4.快楽

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4.快楽

    背中にシーツの冷やりとした感触が伝わる。  思わず体が震えれば、「ごめん」と小さく謝る声がする。  シャツをはだけた彼方が、僕の体を強く抱きしめた。  肌と肌の重なった部分が蕩けていく。  ドラッグとの体の接触は、クランケの体を癒やしていく。触れる面積が大きいほど、体全体にまとわりつく怠さが、みるみる消える。  あっという間に、全てが癒やされて快感に変わった。  自分が脱ぐのもそこそこに、彼方はベッドで僕の体を貪り始める。  鎖骨を舌が這う。  ゆっくりと舐められて、跳ねる体がシーツに縫いとめられた。 「んっ、そこ。気持ちいい⋯⋯」  彼方の長く美しい指が、軽く肌に触れる。  最初は何も感じなかったのに、毎回弄られるうちに、下肢まで反応するようになってしまった。  声を出すのが恥ずかしくて口を閉じれば、強引に熱い舌が割り込んできた。  互いに吸いつくすような音が響く。  舌の根元まで舐め回されて、僕の頭の中は溶けたように何も考えられなくなる。 「もっと」  たまらずねだると、彼方が眉を顰め、舌打ちを漏らす。  美しい男の頬を両手で掴んで引き寄せれば、射殺されそうな瞳があった。  自分から彼方にしがみついて唇を求める。 「⋯⋯最悪」  潤滑剤が、腹と怒張に直接垂らされる。冷たい。普段なら、丁寧に手で少しずつ馴染ませてくれるのに。   「彼方⋯⋯」  自分でも驚くほど甘い声が出た。 「⋯⋯こんな時だけ、そんな声出して」  責める彼方の指がナカに入ってくる。  足の指の先まで、びりびりと快感が走った。  彼方の腹に、僕の白濁が飛び散る。自分の腹に散ったものを指にとって、彼方はくすりと笑った。 「溜まってたの?」 「⋯⋯当たり前」  普段、ろくに性欲なんて感じない。疲れた時は性欲が強くなるなんて言うが、ひどく怠い状態が続けば、欲を感じ続けるどころではない。  彼方の整った顔に、暗い笑みが浮かんだ。 「じゃあ、他の誰ともしてないってことだね」  何を言われているのかわからない。   一体、誰と何をするって言うんだ?  僕の唇に軽く口づけた後、彼方は僕の足首を掴んで大きく広げた。  そびえ立つ怒張が入り口に押しつけられる。  熱い。熱の塊が入ってくる。熱杭は、ナカを何度も擦り上げる。  奥へ奥へと入ってくる雄を、自分が歓喜して迎えているのがわかった。  脚を掴む手に力がこもり、大きく突き上げられた。  部屋の中に、肌と肌が打ちつけ合う音が響く。  彼方の怒張が奥を強く穿った瞬間、目の前が白くなった。腹の中が、熱い大量の熱で満たされていく。  体温も、汗も、唾液も。  彼方が放つ体液の全てが。  快楽と言う名のドラッグに変わり、自分の体の奥まで染み込んでいく。  まどろみから目を覚ませば、体はさっぱりと綺麗になっていた。  少しずつ起き上がろうとしても上手く動かせない。  台所にいた彼方が、ミネラルウォーターを手にやってくる。  昨夜が嘘のように、元通りの優しい眼差しがそこにあった。 「⋯⋯大丈夫?」  ドラッグの体液を大量に体に受けたのだ。いつもよりずっと調子は良かった。 「平気。⋯⋯腰以外は」 「全部、俺がやるから」  彼方のことだ。本当にそうするだろう。  食事も移動も、下手すれば排泄の世話さえも。  彼方は隣にやって来て、僕の頬に手を添える。震える僕の瞼に、軽くキスを落とした。 「⋯⋯理智、ここで一緒に暮らせばいいのに」  彼方は、大学入学と共に家を出た。  親から与えられたマンションは広く、二人で暮らしていくのに何の支障もない。  ぼくは首を振った。  彼方の瞳が、言葉を飲み込んで揺れる。 「理智。俺は⋯⋯」  彼方の唇を指で抑えて、続く言葉を塞いだ。  僕たちは幼馴染で、クランケとドラッグだ。それ以上でも、それ以下でもない。    彼方は唇を噛み締めて、何も言わなかった。  クランケとドラッグは、別に体を交わす必要はない。ただ、ドラッグの体液を体に取り込めば、劇的にクランケの症状は改善する。   体を重ねたきっかけは、些細なことだった。
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