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彼の黒い瞳が、私の視線を捉えようとするが、視線を合わせてはいけないと、昨日の出来事から推察し、瞳を斜め下へと向けた。
「ルディ、君は、2年前からあの演劇を見に来ているだろう?」
「えっ?」
予想だにしていなかった言葉に、私は固まった。
「君は、演劇中 涙が止まらなくて劇場を出た。ロビーでずっと泣いていた。1年前も君は泣いていた。そして、今年も……」
「なんで、そんなことまで!」
彼と視線を合わせてはいけないことを忘れ黒い瞳を見てしまう。
しかし、昨日ような体の変化は起こらなかった。
やはり、この男が隠す左目に何かトリックがあるのか。
固まる私を安心させるように、男性は黒い瞳を細めると、顎に添えていた手を私の目尻に移動させ話し出す。
「2年前に父が死んでね、僕は強制的にあの劇場の支配人になったしまった。言っちゃ悪いが、古い劇場で、特に愛着を持っていなかった僕は、買い取ってくれる業者に売ろうと思っていたのだよ。」
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