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25.December pm6:07
ランベルス劇場
6時の開演の時間をとうに過ぎた。
しかし、始まる気配はない。
演者に、何かあったのだろうか。
「……はぁ、」
ため息を吐き、シャンデリアの下がる高い天井を見上げた。
劇場には、夫婦や恋人、家族と来ている者ばかり。こんな日に1人で来ているのは私くらい。
歳は24となり、パートナーがいれば励まし合い、支え合うことが出来ると理解してはいるが、
今のところ1人で生きることに対して苦を感じていない。
故に、この劇場に愛する人と来ている人達を憎いとも思わない。
「隣、宜しいですか?」
「えっ?」
突然私に声をかけてきた男性は、
黒いスーツに、
柑橘系の奥から漂うムスクの香水、
そして茶色の布を頭から被り、布が取れないように首で紐が結ばれている。
被っている布には、ただ一つ穴が空いていて、そこから黒い瞳が見えた。
彼を見た瞬間、浮かんだ言葉は、
“ 異様 ”
顔に 平静 を塗りつけて、掌を隣の椅子に向けて “どうぞ” を示す。
男性は会釈をすると、静かに腰をかけた。
その途端、
彼を待っていたかのように、劇場のライトは暗くなり辺りの会話が消えた。
そしてブザー音が響き、幕が開ける。
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