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<10>
「あ……アンタが、アンタが何でここにいるのよ」
突然の顔見知りの出現に狼狽する少女の隙をついて、瑞樹が後ずさった。
ガタン!
室内の様子にも気付けず、したたかにテーブルの角で足をぶつける。
だがその痛みにも構っている余裕はなく、そのまま床へと倒れ込んだ。
「〜〜〜聞いてない……聞いてないぞ、こんな……! 下らない与太話のはずだろ? 何で本当に出てきてんだよ! このーーー化け物どもォォォ!!!」
「……へぇ。ふぅん……?」
ずっとずっと、何度も甘い言葉を書き連ねてきた。
きっと大事にするから。
君のことを一生かけて守り抜くと、この男は自分に宛てた手紙に書いていたはず。
ーーーそれが真っ赤な嘘であることなんて、とっくの昔に見抜いていた。
だって、『奥様だって、そう言っていた』。
だから。
だから。あたしの役目は、こいつにーーー
「ーーーわかってたわ、アンタがろくでなしの嘘つきだなんてこと。先生と奥様は、随分前からあんたの絵画複製、贋作販売のことなんかご存知だったわよ。知ってたけど、慎重に調べてた。で、今度はあたしの絵を複製してお金儲けするつもりだったんでしょ? ほんっと、最低な男ね」
「あ……違……違う、違うんだ。僕は、僕はただ……時々、先生の絵を買った人から借りていただけで」
「言い訳無用。先生の版画絵で過去売ったものの中に、通し番号が同じものが複数見つかってるの。そんなことあり得ないのに。何人もの転売屋を通してバレないように売ったつもりでしょうけど、その手は通用しないわ」
「あたしたち」には、確信がある。
だって。
「本物のモチーフ自体が、己の贋作が生産されていく経緯を目の前で見ている」のだから。
「あたしたちモチーフ同士と、奥様は直接会えば話ができるのよ。残念ながら、虚海先生は霊力がなくてダメだったけど。奥様は信頼できる買主を通して、あなたに騙されて絵を貸した人たちの話を聞いた。
一時の鑑賞やイベントの装飾として借りていた絵を、複製してから持ち主に返してたのね。あんたみたいな小者らしい、小狡い手口」
紅のドレスの少女は、内に秘めた怒りを湛えた声で大きな瞳を吊り上げた。
その青い瞳に、更に明るい碧色の光が灯る。
尋常ではない殺気と妖気に満ちたその表情を見て、ヒッと情けない悲鳴を上げた男は一目散に部屋の外へと走り出した。
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
追いかけようとして、ガッと後ろから手首を掴まれる。
「……ッッッ! 離しなさいよ! そもそも、なんでアンタがここにいるのよ!!!」
「……」
目の前の闇色の人物から、被っていたフードが脱げる。
彼女はそのまま、長い髪に覆われて俯いていた顔をゆっくりとこちらに向けた。
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