Praefatio

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 不毛の荒れ地に一つ、大きな街がある。  廃屋と見紛う家が寄り添うように建ち並ぶ中、一つだけ、時代の違う新しい塔が中心に聳え立つ。ちぐはぐなこの景色にも、最近ようやく見慣れてきた気がする。  「おう姉ちゃん、ここを通るなら金をよこしな」  大部分がスラムのこの街に治安なんてものは存在しない。当然のように、追い剥ぎ目当ての男が立ち塞がってきた。  道の大小を問わず、小綺麗な格好をしていればそれだけで追い剥ぎが集ってくる。捕まれば最後、骨まで売られて文字通り廃人だ。  もちろん、そんな奴らの相手をする気も、肥やしになるつもりもない。  あたしはやる事が山積みなんだから。  「おい、待てっつってんだろ」  立ち塞がる追い剥ぎを無視して素通りしたら、しつこく追いかけて来た。  この辺りのボス気取りでいるつもりだろうか。ボスって呼ぶには、見た目があまりにも貧相で小物臭漂ってるけど。  「このアマいい加減に…」  次の瞬間、肩を掴んだ追い剥ぎの地面と空が反転した。  ふわりと身体が浮いたのも束の間、綺麗に弧を描いて地面に叩きつけられる。背中の痛みも相まって、何が起こったか分からないという顔で空を仰いでいる追い剥ぎの頭すれすれに、追撃のメイスが落ちる。その振動とめり込んだ地面のヒビから、メイスがどれだけ重く破壊力が高いかが分かってしまう。  仲良く頭の横に並んだ自分より一回りも二回りも大きい鉄塊を見て、追い剥ぎの顔色がサーッと青くなった。  「手が滑った」  身体を掴んできた相手を自動で投げ返す。昔はそういう迎撃プログラムもあったけど、あたしはそんなものインストールしていない。積み重ねてきた戦闘経験で染み付いた癖だ。  メイスもずっと背中に背負ってたはずなんだけど、こいつの目は節穴なのかな。節穴なんだろうな、うん。  両手持ちの大型メイスは持っているだけで目立つ。扱える人は少ないし、持ち歩いているとすれば、この時代だと古物商とか荷運び屋と考える方が普通かもしれない。  でも残念。あたしは古物商でも荷運び屋でもない。そういう奴らだったら護衛の一人や二人つけるのが常識だし、やっぱりこいつの目は節穴みたいだ。  「それで?呼び止めるからには用事があるんだよね?」  「ひっ…!」  笑顔で聞いただけなのに、追い剥ぎは抜けた腰を引きずって一目散に逃げていった。呼び止めておきながら用件も言わず逃げるなんて失礼な奴。  まあ別に、言わなくても追い剥ぎの用事なんて分かりきった事だしね。  そんな事より、早くあの塔に行かなくちゃ。
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