Praefatio

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 依頼内容はとても簡単なものだった。  「遺跡や旧機関跡の調査ねえ……」  ついでに言えば、あたしが知らなかっただけで、随分前から募集していたものだったらしい。  簡単と言っても、自分の生活に手一杯な連中が大半のこの世界では、外を渡り歩くというのは困難な話だ。それも含め、様々な理由があって今まで誰も請け負う人がいなかったというわけだ。  「はい。機関公式の依頼になるので、報酬もある程度期待に添えられるかと」  塔の最上階にある室長室で、ユーリは報酬金額を提示した。  「……悪くないね。他に制約や制限は?」  「定期的な報告と位置情報の送信。それ以外はキノさんの自由に動いて頂いて構いません」  随分と条件が良い。むしろ良すぎるくらいだ。  「まるで最初からあたしに頼む為に作ったような話じゃない?」  「…他に頼める方がいるとしたら、あなたの弟さんしかいませんからね」  少し困ったように笑い、ユーリはあっさり白状した。  「公平にという事で対象を絞らない募集形式を採っていますが、遺跡周辺の環境だけでも一般人や並大抵の傭兵は身を引くでしょう」  今の時代で遺跡と呼ばれる場所は、ほぼ全てにおいて化け物の巣窟という認識で相違ない。  あいつらに対抗できる存在は少ない。はるか昔、この世界の頂点だったあたし達生体アンドロイドさえ、逃げるという選択しか採れなかったのだから。  その形は今もあまり変わらないけど、昔のままというわけでもない。化け物に対抗できる性能を備えた人が少しずつ現れ始めたと、ユーリは言っていた。  勿論、あたしや弟もその中の一人だ。もっとも、そういう人々の中でもかなり初期な上に特殊な事情があるけれど。  「なんであたしかあいつをご指名なのか聞いても良い?」  「理由はいくつかありますが……そうですね」  思案するように目線をぐるりと泳がせた後、あたしの方を見てユーリは答えた。  「一つは、旧機関跡とその周辺の遺跡を探索できる性能を持つのは、私が知る限りあなた方姉弟くらいしかいない事」  そしてもう一つは、と、もう一本指が立つ。  「その性能を持つあなたの弟……キトさんとおぼしきアンドロイドの目撃情報が、その付近なんです」  「……なん」  頭の中が熱くなるような、冷えるような、急激な血圧の変化が、今すぐに探しに行かなくてはという衝動となって体を動かす。  立ち上がった勢いのまま踵を返し、あたしは一直線にドアの方へ走り出した。
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