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震える手でそれを受け取ったカシラは未だに窓に張り付いていた三人を呼ぶと、「あれが買える」「それならあっちも買おう」と、嬉々として買いたい物の主張と相談をし始めた。
そういうのは外に出てから……と言っても今は聞こえないだろうな。
その様子を終始見ていたイゼルは無関心にため息をついた後、ゲートまで送ると言って職員を呼び、騒がしい四人を押し込むように応接室から追い出した。
あたしもその後に続こうと立ち上がると、
「キノさんはここに」
やんわりと手で制されてしまった。
うん、まあ、何となくそんな気はしてたよ。イゼルはそういうの隠すの下手だし。
「と言ってもここは外部の出入りが多いので……そうですね、こちらにご足労いただけますか」
「手短に頼むよ」
あのまま一緒に外に出たところで、どうやって四人を撒くかで悩んでいたから丁度いいや。
経験上、おっちゃんもあたしに忠告したからには遅くなるの分かっているだろうし。
遠ざかる四人の騒ぎ声を聞きながら、あたしとイゼルは応接室を後にした。
病棟区画を抜け、来たことのない地下の区画に足を踏み入れる。
高くない天井まである図体のでかい機材の稼働音がやけにこもって耳につくのは、地下という空間が閉じられた場所だからかな。その雰囲気は『生前』で言うサーバー室によく似ている。
これだけ大きな機材が稼働してるとなると排熱でダウンしそうなものだけど、空調の方が勝っているおかげでアンドロイドには少し肌寒い。上着が欲しい、と考えているとイゼルがロッカーから白衣を出してくれた。
「これは私の経験則によるものですが、室長は恐らくこちらにいらっしゃるかと」
「あ、そうなんだ」
どうやらあたしがユーリに用事があると思って案内してくれてるみたいだ。
別に用事はないし、庭にいたから気軽に声をかけただけなんだけどな。
「ただ挨拶しただけだし、休みにわざわざ邪魔するつもりは」
申告すると案の定、「そうなの?」という顔で振り向いてきた。
それを追うようにしてイゼルの顔がみるみる赤くなる。淡くくすんだ赤い髪色と遜色ないくらいに染まっていて、本人には悪いけどちょっと笑いそうになる。
「私の早とちりだったようで……すみません」
「いや、良いよ。結果的にあの四人から引き離してもらえたのはありがたいし」
「……そうですか」
勘違いとはいえ自分の行動が無駄ではなかった事に、安堵したような呆れたようなため息をつくイゼル。
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