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「お話は済んだようですね」
イツカの存在を開示した後、あたしとイツカのやり取りを窺っていたイゼルがようやく口を開いた。
「ああ、ごめんごめん。話も聞けたし、あいつらも帰ってるだろうからここらで外に戻るよ」
上司たるユーリの好意と指示とはいえ、急患の報告を待たせるのは良くない。
そう思って椅子から降りてドアに向かおうとしたところで、背後から不穏な一言が飛んできた。
「それは構いませんが……彼らはまだゲート前で待ってるようですよ?」
「えっ」
なにその根性!?
思わずイゼルの方を振り返ると、彼女はモニターの画面を切り替えて静かに差し出してきた。
表示された画面には確かにカシラ達四人があぐらをかいてゲート前に居座る姿が映っている。外に出た時点で臨時パスは失効してるから、中に入りたくても入れないんだろう。
その様子はなんというか……籠城する獲物が出てくるのを虎視眈々と狙う狩人みたいでゾッとした。
「……もうちょっとここにいても良い?」
モニター越しにユーリをチラッと見てお伺いを立てる。
既にイツカと交代しているユーリは、ふむ、と少し思案した後、イゼルに尋ねた。
「急患の発見者は確かキノさんでしたか」
「厳密にはゲート前の彼らが先だそうですが……キノさんも発見者の一人ですね」
「でしたら大丈夫でしょう。キノさんも報告を聞く権利はありますから」
そう言うと、ユーリはにっこり笑って椅子を勧めてきた。イゼルの報告を聞いても良いという建前で、ここの滞在を許可してくれるみたいだ。
ただ、あの張り付いた笑顔は見覚えがある……あれは
「イゼル、報告が終わりましたらゲート前の掃除をお願いします」
「かしこまりました」
そう、(機関の設備を使った)実力行使を決めた時の顔だ。
イゼルの報告が終わり次第、カシラ達は強制的にあそこから排除される事になる。恐らく、二度と研究機関の近くには近寄れない形で。
あたしは心の中でそっとカシラの肩を叩いておいた。
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