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「……さん、キノさん」
「ふぁ?」
肩を叩かれ顔を上げると、ユーリが首を傾げてあたしの顔を覗き込んでいた。
情報の整理に埋没している間に報告は終わったらしい。
「今イゼルが掃除に向かいました。じき外に出られると思いますが」
「ああ、それじゃあ戻ろうかな」
まだ整理が終わってないんだけど……まあ雑用全部済ませてからでも問題ないか。
背中を伸ばして椅子から立ち上がった後、チラッと横目でモニターを見る。
そこにはセキュリティロボットに追い回される四人の姿があった。あのロボット、機関の中で見かけるやつと同じだけど、あんな変形機能ついてるのか。
変形はただの威嚇用で殺傷力がないのは一目瞭然だ。とはいえ、パニックに陥ってる四人にそうと分かるだけの余裕はなさそうだ。
「ねえ、あれ誰かの趣味?」
モニターに映るロボットを指差して何気なく聞いてみると、ユーリはふむ、と顎に手を当てて考える仕草をして口を開いた。
「あれは職員の技術不足でまだ作れなかった頃のものですから……外の工房の人がデザインしたものだったと記録してますよ」
外の工房、ねえ……。
「その工房の人、酒好きだったりしない?」
「開発の対価に要求するくらいにはお好きなようでしたね」
やっぱりおっちゃんか!!
あたしの反応を見て『お知り合いですか?』と表情で尋ねてきたユーリに、今日の出来事を簡潔に説明したら苦笑いしていた。
ユーリはおっちゃんが世紀末を生き残った希少なアンドロイドというのをもちろん知っている。機関に誘致しようとした事もあるらしいけど、提示された条件が厳しすぎたが為に諦めたとか。
主に酒不足という理由で。
ユーリの性能を持ってしても、あのおっちゃんの価値観を直す事は不可能だったようだ。
「どうやら掃除が終わったようですね」
そんな話を聞いているうちに、モニターに映るゲート前はいつも通りの閑散とした風景に戻っていた。
あのロボットに四人がどこまで追い出されたか、あるいは一時的に捕まえられているかは知らないところだけど、とりあえずこれ以上トラブルが起きる様子はなさそうだ。
すっかり日が傾いてるものの、これだけトラブルだらけになったにも関わらず一日でおっちゃんの工房に戻れるなら早い方だな。
「いやあ助かったよ。ありがと」
「これくらいは些事ですよ」
イツカの記録の欠落や超文明技術の復興という、長期的で規模の大きな問題を抱えるユーリにとって、ならず者のゲート前占拠なんてトラブルは簡単に片付いてしまう些事なんだろう。
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