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「はぁ? ……このコーラ、もしかして酒入ってる?」
僕はコーラが入ったガラスのコップを持って蛍光灯の光に透かしてみるが、小さな気泡が弾けて浮いただけだった。
「入ってないよ」
そう言って姉さんは、けらけらと笑ってビールを一口飲んだ。
「まだ分かんないかな? つまり、パパは今、本物のサンタクロースで、今日はプレゼントを届けに世界中を回ってたんだよ!」
いやいやいや。
「正式には代理だけどね。君も知ってるだろ。商店街の外れの喫茶店。おじいちゃんがマスターしてるお店」
「……ここに来る前に寄ったけど?」
「マスターね、本職サンタクロースなの。あれ、山田って書いてサンタって読むんだよ?」
「びっくりだよな、まさか近所の喫茶店のマスターがサンタクロースだったなんて。前に喫茶店に食べに行ったらさ、マスターの持病の腰痛が悪化したらしくてね。クリスマス前で忙しいのに車に乗れないって悩んでたんだよ。俺も常連の端くれだから何か手伝えることないか聞いてみたら、マスターが本職の事話してくれてね。サンタの代理頼まれちゃってさー、いやー困ったよ」
脳みそが考える事を放棄し始めていた。
「でも、あんまり無い経験だし、やってみる前から断るのも駄目でしょ。丁度、桜もサンタクロースに憧れてたみたいだし、仕事に都合付けて手伝ってみたんだ。でも、さっき桜にも言ったけど家庭があるとサンタって職業は厳しいねー」
「はぁー」
僕はコーラを飲み干し、18年間生きてきた中で一番深い溜め息をついた。
「……騙してたんだね。そう言えば、姉さん言ってたもんなー。なんだっけ? どんな形になっても、十年後二十年後に振り返ってみれば今日の事はいい思い出になる?そりゃそうだよ。完全にドッキリだもん」
姉さんが申し訳なさそうに僕のコップにコーラを注ぐ。
「仕事が何時に終わるのか、そもそも桜の担当がパパなのか、とか詳しい事は直前まで分からなかったのよ。ごめんね」
「君が『サンタの手紙』を作ってくれてるって電話で聞いてさ。俺が提案したんだ。許してくれ」
「……まぁ、いいけどさー」
「それよりまだ一つ問題が残ってるんだ。やっぱりマスター、慢性的な腰痛らしくて来年も出来るかどうか分からないから辞める事に決めたみたいでね」
「え、喫茶店畳むの?」
「違う。サンタの方」
「……あっ、そう」
「サンタクロースには色々決まりがあるらしいんだけどね、辞めるには新しい人間に引き継がなくちゃいけないんだよ。俺は今の仕事が好きだし、家族の為にもクリスマスは家で過ごしたいんだ。そこでなんだが、……君サンタクロースの仕事、興味ないかい?」
「あー、それは思いつかなかったな。いいんじゃない?」
姉さんが同調する。
「なんで僕が!?」
「世界中の子供達に夢と希望を届ける立派な仕事って言ってたじゃない。それに……」
言いかけて、姉さんは言葉を飲み込んだ。
「それに何さ?」
「……どうせ、来年もクリスマス暇でしょ?」
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