クリスマス、予定ナシ!

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 桜は、食事が終わった後、恐るべきスピードでお風呂、トイレ、歯磨きを済ませ、ベッドに入った。僕は姉さんの助けも借りながら、桜に見つからない様に『サンタの手紙』を作成した。自分で言うのもなんだが、要約すると『大人になるまで良い子でいられた人だけが、サンタクロースになる資格がある』なんて、問題を先延ばしにする嘘が書かれた酷い代物だった。 「どうなんだろうか?」  僕は姉さんの顔を見た。 「悪くはないんじゃない?」 「納得してくれるかな?」 「泣くかもしれないね」 「嘘⁉」 「でも、この手紙を糧に良い子に育ってくれたら私は嬉しいよ。それに、どんな形になっても、十年後二十年後に振り返ってみれば今日の事はいい思い出になる。そんな気配が私にはハッキリと感じられるね。任せて良かったと思ってる。だから安心しなよ」  そう言って、姉さんは僕の肩をぽんぽんと叩いた。 「そう言えば、さっきパパに電話したんだけど、予定より早く帰って来れそうなんだって。桜の枕元に隠す前にパパにこの手紙、写真に撮ってメールで送ってもいい?」 「いいよ」  僕は手紙を文面が見える様に広げ、それを姉さんが写真に撮った。後は隠すだけだ。  音を鳴らさないように注意しながら、桜の部屋の扉を開けてベッドに近づく。 「どうしたのー? 叔父さん。……何かあった?」  怪訝な顔の小学生。思わず体が固まった。 「何もないよ。叔父さんもサンタの事が気になって、ちょっと見に来たんだ」 「へえ? 叔父さんも? 私もねー早く寝すぎて、もう起きちゃった」 「ちゃんと寝てないとダメだろー。サンタがびっくりしちゃうよ」  手紙をポケットに隠す。 「寝れないんだもん。何かお話してよ」 「お話? どんな?」  しゃがんで、桜の顔を見た。 「任せる」  そう言って、桜はぽんぽんと僕の肩を叩いた。 「昔々、お爺さんとお婆さんがいました。お爺さんは山へ芝刈りに……」  僕は話し始めた。  気付けば、僕も桜のベッドの横で眠ってしまったようだった。少し寒い。腕時計を反射的に見るが、暗くて良く分からない。桜の方を見る。ぐっすり眠っているようで安心する。ポケットから手紙を取り出そうとした時に腕に何かが当たった。振り向くと、赤い服を着た見慣れた男が目の前に立っていた。
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