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村人なんて勝手なもんだー
俺は勇者などと呼ばれ、人々からもてはやされていた。戦闘しか能がなかった俺は、魔物が脅威となる間は人々にとって都合の良い存在だからだ。
だが魔王を倒し、魔物達が居なくなれば用済みになるだろう。そんなことは最初から分かっていた。だが、人々から感謝されるのが嬉しくて、安心して笑顔になるのが見たくて、俺は襲い来る魔物を倒し続けた。
そしてついに、俺は魔王の城にたどり着いた。
「さぁ、掃除の時間だ。」
ー俺は今、魔王の城の敷地内で畑を耕し、野菜を育てている。
城に足を踏み入れた俺は拍子抜けした。魔王は既に老いて弱体化し、一部の荒くれ者の魔物達を制御できなくなっていた。
魔王と従属する魔族達は人に干渉されず静かに暮らすことを望んでいた。そこで、協力して人に害をなす魔物を討伐し、逆に魔王城に来る人間との交渉を請け負う事になった。
それらの仕事が無い時には、こうして借りた土地で畑をやっているのだ。
魔物の討伐が進んで人を襲ったという報告もほとんど無くなった頃、今度は人間の方が厄介になった。これまでやられてきた報復に多くの人間が魔王城に乗り込んでくるようになったのだ。
その度に俺が交渉に行った。大人しく話を聞いて帰る者も居れば、そんなことで納得出来るか。と激昂する者。魔族に寝返った裏切り者だと罵る者も居た。
だが最も厄介なのは、一度は納得したフリをして夜襲をかけてくる奴らだ。魔族にとっては夜戦などむしろ得意分野だが、俺は卑怯な真似が大嫌いだ。
そうなったら俺も、相手が人間だろうと黙ってはいられない。もとよりそういう奴らは俺の事を魔族に寝返った《裏切り者》とみなし本気で襲ってくる。そして一度手を血で染めている俺は血の匂いは嫌いじゃない。 そうなればやることは1つ。
「さぁ、掃除の時間だ。」
好戦的な笑みを浮かべ、俺は夜の闇に溶けて行くのだ。
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