その19

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その19

 わたしの夫が防犯対策に力を入れはじめた。家にあるものはすべて盗まれないよう現金に換え、銀行へ預けた。かろうじて残った食器だが、それも棚に入れ、厳重に保管するという。夫は「こんなご時世だから用心に越したことはない」と言ってきかない。翌日、夫はさらに防犯装置をつけるといいだした。用心するに越したことはないとまた言っている。これで終わりかと思いきや、家の窓に木材を打ちつけた。これも「用心するに越したことはない」そうだ。挙句の果てに妻であるわたしに拳銃を持たせた。食器棚に近づくやつがあればそれで撃ち殺せという。用心するに越したことはないからだそうだ。わたしはうんざりしていた。そんなある夜、わたしが目を覚ますと、不審な物音がした。どうも食器棚のほうから聞こえる。わたしは夫に押しつけられた拳銃を持ち、その人影に向かって四発撃ちこんだ。明かりをつけると、それは夫だった。わたしはすぐに金をもって逃げだした。どこへ行くかは秘密である。用心するに越したことはないのだから。  ワンフレーズをくり返す話です。作中でやたら何度も出てくると思ったらオチで使うというわけですね。
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