五、接触 の巻

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五、接触 の巻

黒猫モモと龍神様による邪なる謎の猪との戦いの翌日、龍神様とモモは新たな戦いにその身を投じておられました。 'ええい、モモよ!我は風呂に入りたいのだ!大人しく観念せい! ' 「モモお前砂だらけじゃないか、ちゃんとシャンプーさせなさい!」 モモの飼い主である水森 司は風呂場の大きい桶にお湯を張り、大きな音でモモが驚かない様にシャワーを桶の中に浸けて準備をしていました。 ですが抱き抱えられたまま風呂場に入った瞬間に司の腕から必死に逃げ出そうと暴れ始めたのです。 龍神様はこの風呂に入るのを昨夜から楽しみにしておられました。 司はモモを風呂に入れたい。 龍神様は風呂に入りたい。 しかしモモは と言う司と龍神様の思惑とモモの強い意志とがぶつかり合って、この水森家の風呂場において、『第?次入浴戦争』が勃発していたのです! 司は素早く風呂場の戸を閉め、モモが逃げ出さない様にしました。 龍神様は強力なドラゴンパワーでモモの体を支配し、温かい湯が張ってある桶にダイブしました。 しかしモモはお湯に飛び込む寸前でドラゴンパワーを跳ねのけ、爪を桶の縁に引っ掛けると華麗に体を反転させて入浴を阻止します! '小癪な猫め! ' 龍神様は何度もドラゴンパワーで桶にダイブしますが、モモも意地でそれを阻止しています。 龍神様とモモの激しい攻防に、司は目を丸くしていました。 'つかさよ、何をやっておるのじゃ!我を抱き抱えて手伝わぬか! ' ふと我に返った様に司はモモを捕まえようとします。 (何だ、今日のモモは?入りたいのか入りたくないのか分からない動きしてる… ) そんな事を思いながら司はようやくモモの体を抱え上げる事に成功しました。 'よし!つかさよそのまま我を桶に投げ込め! ' 龍神様の祈りが司に通じたのか、司は迷うこと無くモモを桶の真ん中に放り込みました。 空を舞うモモの体がまるでスローモーションの様に桶の真ん中に吸い込まれて行きます。 その位置ではモモの手足は桶の縁には届きません。 'つかさよ… 良くやった。これでこの戦いも終わるぞ… 本当に良くやった ' 水を司る龍神様こと青龍は、風呂に入ってしまえばパワーが遥かに増すのです。 'これでようやく我がこの体を御せる… ' そう思った瞬間! 『バーンッ!!』 大きな音で屋敷全体が震えた様でした。 司は尻もちを着いています。ズブ濡れになって。 モモは桶の真ん中に着地し、ゆっくりと腰を降ろしました。 'な… 何ぞ!? ' 龍神様も何が起きたのか分かりませんでした。 モモは着水した瞬間に激しい稲妻に似たエネルギーを発し、桶の中のお湯を弾き飛ばしたのです。 桶の中から飛び出したシャワーヘッドはタイルの上で暴れてお湯を吹き上げています。 そのお湯が辛うじてモモに降り注ぎました。 『チッ…』 'んん!?モモ、お主は今舌打ちしたであろう!? ' 頭からお湯を被ったモモは頭をぷいと横に向けました。 お湯を被っている時点で龍神様の力が増していたのでしょう。モモはもう諦めた様に桶の中から出ようとはしませんでした。 「な、何が起こったんだ… 」 司は弾き飛ばされたお湯を全身に浴びていました。しかし起き上がってシャワーヘッドを手に取ると、ヤレヤレと言う感じでそっとモモの頭を撫でながらお尻の方からお湯を掛け始めました。 'オオゥ… 心地好いぞ、つかさよ… ' 龍神様は生き返る様な気持ちでした。 『チッ…』 '… また舌打ちしたな、モモよ… お主、ただの猫ではない事は分かっておる。改めて問おう。お主… 誰ぞ? ' モモは黙ったままです。 司はモモにシャワーを掛けながらペット用シャンプーでモモの体を洗っていきます。 'おお… つかさはちゃんとこの心地好い洗い方を心得ておるのぅ ' あれだけ暴れたモモも司のこの洗い方は気持ちが良い様で、龍神様が抑え込まなくても大人しくこの心地良さを堪能しています。 段々と桶にもお湯が溜まっていき、龍神様も、モモも久しぶりに気持ちの良い時間を過ごしていました。 'まったくこの猫と言う奴はどうして水嫌いかのう?心地好いくせに、この天邪鬼めが… ' 龍神様の目にはある文字が目に入りました。 桶の縁に『水森 司』と書いてあります。きっと司が幼い頃に使っていた桶なのでしょう。 'ふむ… つかさは『司』と書くのか… 水森とはこの屋敷の入口に書いてあったから分かってはいたが… どれ… ' モモの体を洗っている司の頭に突然声が響きます。 『司よ… 水森 司よ… 』 「え?な、何!?」 司は突然辺りをキョロキョロと見回しました。けれど誰も居る筈がありません。 『司よ、何処を見ておるか。我はお前の目の前じゃ… 』 「え!?」 司は目の前のモモと目を合わせました。 「モモ…なの??」 『そうじゃ。正確にはモモの中からお主に声を掛けておるのじゃがのう… 』 司は突然の事に驚きを隠せません… 『そう訝しむでない。我は… 蒼龍神社に祀られておる龍神、青龍じゃ』 「りゅ、龍神様…??」 『そうじゃ… お前に色々と尋ねたい事がある』 「… 」 司は黙って立ち上がるとシャワーのお湯を止め、ヘッドを掛けて突然ガラガラッと風呂場の戸を開けると、「うわあぁぁぁっ」と逃げる様に風呂場から掛け出て行ってしまいました。 '… … 逃げたのぅ ' 『プッ!!』 'む!? モモ貴様今我を笑うたか!?笑うたであろう!! ' こうして龍神様は、初の司との接触は失敗に終わったのでした。 モモ、いや龍神様がいつまで放置されたのか? 風邪を引かないうちに救出されたのかは皆様のご想像にお任せするとして、今日のお話はこれにてお終いです。 司とモモ、龍神様の関係はどうなって行くのでしょう? それは次のお話で。
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