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六、水森一家 の巻
水森家では、家族揃って昼食を囲んでいました。
司、司の父、母、そして姉。
その部屋の隅っこで、龍神様こと黒猫モモも食事を摂っていました。
二時間程前の事…
午前中に桶の風呂に浸かりながら、頭からはお湯の雨が降ると言う中々無いシチュエーションで龍神様はモモと共に司が迎えに来るのを待っていました。
時間にして五分程でしょうか。司はそ〜っと風呂場に帰って来ました。
「… モモ、ごめん。何か疲れてるみたいで… 」
司はそう言うと手早くシャワーを止めて、龍神様… もといモモを抱え上げて桶の外に出すと柔らかいタオルで体をゴシゴシと拭き始めました。
'司よ… お前は疲れている訳では無いのだ… '
龍神様はそう思いながらも、司に直接語り掛ける事をしませんでした。
'とりあえず今はこ奴(モモ)の体を拭いてもらわねばな… 具合が悪くなられては我が困る '
モモの体から出る事が出来ない今の龍神様は、万が一モモが死んでしまうと龍神様も一緒に昇天されてしまうので、憑依している宿主の体調は龍神様にとっても死活問題なのです。
司はしっかりモモの体を拭きあげると脱衣場に移動し、ドライヤーを体に当て始めました。
「あれぇ?モモ、今日はお利口じゃないか、大人しくドライヤーさせてくれるなんて」
そう言うと司は温風でモモの体を乾かしていきました。
龍神様も初めは
' 何だこのカラクリは? '
と思われましたが、司がこのカラクリから出る温風で体が乾かそうとしている事をすぐに理解され、嫌がるモモの体を強制的にジッとさせていたのです。
モモの長めの体毛がフワフワになっていきます。
'どうじゃモモよ、これが風呂の力ぞ! '
龍神様は風呂パワーでモモの体を制御出来ている事にほくそ笑んでおられました。
体毛が乾くのは風呂パワーではありませんが。
その後、モモの体がしっかり乾くと司はブラッシングしました。
これは龍神様だけでなくモモ自身も気持ち良かった様で、風呂パワーを使わなくともモモ自ら司に身を委ねていました。
'モモよ、お主も心地好いと思っておるのに何故主人の言う事を聞かぬのじゃ… この我儘猫め '
そんな龍神様の声には答えず、モモは気持ち良さそ~にブラッシングをされていました。
一通り司の作業が終わると、モモはゆっくり脱衣場から出て行きました。
'ん~生き返ったのう… さて、ちと散策でもしようぞ、モモよ '
モモはそんな龍神様の意に反して縁側の陽当たりの良い場所に陣取り、全身の毛繕いを始めました。
'… こ奴め… '
そして話は食事中に戻ります。
モモは缶詰から出されたツナにかぶりついています。龍神様もその味にはご満悦でしたが、食事をされながらもこの水森一家の様子を窺っていました。
会話から司は高校生、姉は名を「穂(みのり)」と言い、大学生と分かりました。
勿論、名前を漢字でどう書くのかや、高校と大学と言う所が具体的にどんなものなのかは今はまだ龍神様の知る所ではありません。
母親が二人の学業の様子を気にしている事から、およそ学ぶ所であろう事は龍神様も察しがついておられましたが。
そして龍神様が気になったのはこの水森家の主である父親でした。
口数は少ないものの、龍神様はこの人間を知っている気がしていました。
それは…
'この人間の気配、我が眠っている時から傍に居た気配だのう… '
それもその筈です。司の父親こと「衛(まもる)」は蒼龍神社の神主の一人なのですから。
朝から家に居るところを見ると、どうやら今日は休みなのでしょう。
しかし龍神様はそんな事は知りません。
'この人間の方が我との相性が良いかも知れぬなぁ '
すると唐突に衛はモモに目を向けてジッと見つめて来ました。
'む?何ぞ? '
モモはツナを食べていますが、龍神様の目と衛の目が合っているのです。
「どうしたの、あなた?」
突然モモを見たまま固まっている衛を見て、妻の「郁(あや)」が声を掛けました。
「あぁ、いや何やら龍神様が来ていらっしゃる様だ… 」
'むむ!? '
「龍神様?!」
龍神様が驚くのと司が声を上げたのはほぼ同時でした。
「どうしたの司?龍神様がいらっしゃってても不思議じゃないじゃない。有難いことだわ」
郁は司の声の方に驚いた風でした。
穂もキョトンと司を見ましたが、一度モモに顔を向け微笑むと、また食事を続けました。
「いや母さん、さっきモモを風呂に入れてる時にモモが自分は龍神、青龍だって話し掛けて来たんだよ!笑われるかも知れないけど… 」
司がそう言い掛けて、今度は衛が反応しました。
「司、お前がどうして龍神様の名前が青龍だと知っている?」
司は衛に目を移すと「いや、だからモモがそう言う風に話し掛けて来たんだって!」
そこまで言うと食卓を囲んでいる水森家一同は皆、モモの方に目を向けました。
一同の一時の沈黙の後、ツナを食べ終えたモモはゆっくりと皆の方に体を向き直りました。
『いかにも、我は青龍、龍神ぞ… 』
龍神様は皆の頭の中に直接語り掛けました。
衛はカチャンと箸を落としました。
「龍神様… まさかモモの体に?… 」
『いかにも、お主が察している通りぞ。今はこの猫の体を借りておるがの、龍神ぞ』
衛の顔がみるみる青くなって行くのに龍神様は気付かれました。
『ん?お主顔色が悪いぞ?』
「た… 大変だ!」
『んん??』
「龍神様!モモは、その猫はただの猫ではありません!龍神様、その猫には強力な封印術が… 」
『四神封印が施されておるのぅ… コレ、お主の仕業か?』
「と、とととんでもない!遥か大昔の先祖によって施されたとの言い伝えが… 」
『フム… 』
龍神様はじっくりと話を聞く必要があるなと思われました。
さて、一体どんな謎が語られるのでしょうか?
大いなる謎を秘めたまま、今日のお話はこれにてお終いです。
水森家とモモ、龍神様の関係は一体?
それはまた次のお話で。
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