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大学の冬期休暇を控え、私は割のよいバイトを探していた。
ロクな募集は無かったが、顔見知り程度の友人――のまたその友人といった人物が話を持ちかけてくる。好条件の単発バイトがあるらしい。
「まさか風俗関連じゃないでしょうね。イヤよ、絶対」
いかがわしい仕事ではない、と彼女は主張した。
何でも毎年募集があるらしく、昨年は彼女の先輩が応募して十万円を頂戴したそうだ。
仕事の内容は単なる留守番、それも一晩だけで終わるのだとか。
「そんなに楽な話なら、自分が申し込めばいいのに」
「場所が遠いのが難点でさ」
どこ? と聞いた私は、あまりの僻地に絶句する。
留守を預かる家が在るのはバスを乗り継ぎ、さらに歩いて半時間という山中だった。
どうも引き受けてくれる人間が見つからなかったようで、探し回った挙げ句に私へお鉢が回ってきたみたいだ。
連絡先を教えてもらって問い合わせると、翌日には面接が行われる。
街中のカフェで会った依頼者は年代物のスーツを着た老人で、袖から出た手の甲は古傷だらけだった。
留守番をするのは、一月二日の夕方から三日の正午まで。山の屋敷に残るのは私一人で、近隣に人は住んでいない。
十年前に電気と水道は敷かれたそうで、それすら無かった時代は薪と井戸で暮らしていたらしい。
「うわあ、キツそうですねえ……」
「よろしく頼む。受け手がいなくて困ってるんだ」
老人に深々と頭を下げられると、無下には断りづらい。
屋敷にある物は何でも自由に使っていいと言うのだから、不便は無いようにも思う。
ただ一つ、大きな疑問が湧いた。老人は遠方へ出掛けるそうだが、なぜ留守番が必要なのか。鍵を掛けておけば済む話ではと問うと、老人は少し声の調子を落として答える。
「見張っていて欲しいものがあるんだよ」
「ペットですか?」
「火だ」
場合によっては睡眠時間を削る必要もあるらしく、要は寝ずの番をしろということだ。
「去年は特に問題が無かった。今年はどうだろうなあ」
「最悪、徹夜も可能ですけどね」
「そのつもりでいてくれると助かる。つつがなく事が済めば――」
老人は指を二本立てた。今年の報酬は二十万、その言葉に他の質問を呑み込む。
前金に五万を差し出された私は、少し怪しげな留守番を承諾した。
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