弱虫

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「嫌?」 私は聞いた。そうでは無いはずだ。 「違う!あの、ちょっと待って...」 顔を左手で隠した。恥ずかしがっているのだ。今さら。 「何か欲しいの?全然良いよ」 本心だ。まだまだ貯金に余裕はある。 「そうじゃない…違う」 髪に指を飲み込ませて頭皮を掻き始めた。何が違うのか。隠す事ないのに。 「私は私のもの全部あげる。あなたが卒業したって、何なら私が養ったって良いよ」 大手に就職を決めてよかった。まだまだ稼げる。彼の上に立てる。 「......」 黙り込んでしまった。 私の勝ちだ。 あなたは自分が情けないでしょ?分かるよ、私はあなたの性格なら、どんな人より1番分かってるつもり。 あなたの顔に釣られた薄っぺらい女とは違う。毎日バイトしながら、大学の課題をすごく丁寧にまとめて、怠け者の友達なんかに見せてあげるような、その人の良さ。 私があなたに惹かれた1番の理由。 あなたは私のことが嫌いでしょ?分かるよ、私は私の性格のことも、どんな人より1番分かってるつもり。 あなたが貧乏で良かったと思ってる。ゼミ仲間に誘われた飲み会の席、馬鹿な友人に無理矢理連れてこられたあなた。慣れない酒に酔っぱらったあなたから生活に困ってることを聞き出した。 押し付けるようにしてお金を渡した。その後実家への仕送りにも口とお金を出した。あなたは私に逆らえなくなった。 私が私を嫌いな1番の理由。 でも離すつもりはない。大学卒業の年、4年想い続けたあなたの弱みをようやく握った。 私はあなたを彼氏にする。あなたが私をどう思っていようが関係ない。 私は自分の感情を諦めない。 だから、あなたの感情を見ることはない。 「これを…」 …何?差し出してきた。封筒? 中身は、 「…え」 お金。何枚…結構ある。 稼いだのか?あんなに忙しく働いてもまだお金に困ってたのに。もっと増やしたのか?私を遠ざけるために。 いやでも、まだ全額には足りてない。大丈夫、今はとにかく話をなあなあにして、何かのタイミングでもっとお金渡して、遠ざけないように… 「まだ!」 え? 「全然足りないけど。就職してもっと稼いで返して、今度は俺が君を支えるぐらいになるから」 ……。 何?何だ?何言ってんだ? 「助けられた。自分だけで何とかしようとして、頑張って、でもずっときつかった。君がいなかったら、多分もう心が折れてた」 あなたが息を吐いた。 「君は僕を救ってくれた。情けなかったけど、本当に嬉しかった。まだお金全部返した訳じゃないからこれ言うのも本当恥ずかしいんだけど」 ……。 「告白は僕からさせてくれ」 ……。 どういうことだ? 私に告白?私が、好きってことか?あなたが?汚い作戦立ててあなたに近づいた私を? ……。 いや、これはあれだ、この人気付いてないんだ。私が本気で心配して自分を助けてくれたと思ってんだ。そうだよな、この人はそういう人だもんな。 じゃあどうすりゃ良いんだ?いやOKすりゃ良いんだ、目的だったんだし。何か良い感じの返事をこう、…ダメだ、鼻詰まってきた。あーダメだ、目もヤバい、潤む、何か言わないと、何か。 ……。 「うれしい…」 ……。 ダメだ。もうダメだ。彼の上に立てない。 立ちたくない。 彼と向き合いたい。 彼の上着が私の顔を包んだ。
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