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1か月前、理事長の一人娘とお見合いをした。
断り切れなかった。
断ったら学校もクビになるのではないか、そこまで行かなくても今後の出世に関わるのかもしれないと。
見合いの後も彼女に誘われるままに何度か会っていた。
俺よりも5つ年下、他の学校で同じ教員をしている女性。
容姿だって美しいし、気の利く人だし何か欠点があるわけでもない。
結婚相手としては非の打ちどころもないだろう。
理事長の娘と結婚したならば今後の教育者としての人生も安泰。
良いことづくめだというのに、どうしても俺は踏み出せないのだ。
一つ、大きな問題があるから。
俺には恋人がいるということだ。
3年前、再会してすぐに付き合いだした。
優しくて愛らしい、結婚も考え始めていた。
いや、再会した時にはもう結婚するなら彼女以外考えられないなと思っていた。
それぐらい愛していた。
なのに、彼女に内緒で見合いをしてしまったこと。
それを断り切れずにいること。
いつしか罪悪感に苛まれて、苦しくなって彼女にそれを打ち明けた。
それが10日ほど前のことだ。
「大地はどうしたいの?」
泣き出しそうな顔で、でも微笑んでいた。
「ちゃんと考えて?」
諭すような優しい声で何も言えない俺の頭を撫でた。
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