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放課後、誰もいないと思った教室。
だけどそこには一人だけ、窓際の席に座る女子生徒がいた。
窓の外を眺めていた彼女は俺の気配を感じて、こちらを振り返る。
「……教室、だよね?」
是枝 柊花。
クラスではさほど目立つことのない生徒。
長い黒髪に黒目がちの大きなタレ目、愛らしい顔立ちの少し天然な幼い感じの子。
授業中もボーッとしていることはあれど、こんなにもボンヤリとした表情は初めて見た気がする。
まるで今夢から覚めたとでも言わんばかりに、ひとりごちるように呟いたから。
「家ではないな? 寝ぼけてんのか?」
思わず苦笑しつつ、教壇の中に忘れていた自身の腕時計を取り出し装着。
「変わってるよね、チョークの粉が嫌だからって授業前に外す癖。だったら時計なんかしなきゃいいのに」
「あのな、ちゃんとこれには意味があって」
「知ってる、亡くなったお婆ちゃんからの大学の合格祝いの時計。大事に使ってるから汚したくない。だったら尚更家に置いておけばいいのに時計が無いと不便だから、そう言うんでしょ?」
「……、言ったことあったっけか?」
是枝の言葉に驚いた。
いつか授業でそんな話をしたことがあっただろうか?
だけどその問いには答えないままで、じっと俺の目を見つめて微笑んだ。
「あのね、」
「うん?」
「どうやら、今ね、夢を見ているみたいなの」
夢を、見ているみたい、って?
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