夢の途中で

2/8
54人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 放課後、誰もいないと思った教室。  だけどそこには一人だけ、窓際の席に座る女子生徒がいた。  窓の外を眺めていた彼女は俺の気配を感じて、こちらを振り返る。 「……教室、だよね?」  是枝(これえだ) 柊花(しゅうか)。  クラスではさほど目立つことのない生徒。  長い黒髪に黒目がちの大きなタレ目、愛らしい顔立ちの少し天然な幼い感じの子。  授業中もボーッとしていることはあれど、こんなにもボンヤリとした表情は初めて見た気がする。  まるで今夢から覚めたとでも言わんばかりに、ひとりごちるように呟いたから。 「家ではないな? 寝ぼけてんのか?」  思わず苦笑しつつ、教壇の中に忘れていた自身の腕時計を取り出し装着。 「変わってるよね、チョークの粉が嫌だからって授業前に外す癖。だったら時計なんかしなきゃいいのに」 「あのな、ちゃんとこれには意味があって」 「知ってる、亡くなったお婆ちゃんからの大学の合格祝いの時計。大事に使ってるから汚したくない。だったら尚更家に置いておけばいいのに時計が無いと不便だから、そう言うんでしょ?」 「……、言ったことあったっけか?」  是枝の言葉に驚いた。  いつか授業でそんな話をしたことがあっただろうか?  だけどその問いには答えないままで、じっと俺の目を見つめて微笑んだ。 「あのね、」 「うん?」 「どうやら、今ね、夢を見ているみたいなの」  夢を、見ているみたい、って?
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!