君の好きなところ

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 僕と先輩は圧倒的に意見が合わない。 「先輩、夏休みになったら海に行きましょうよ」  いわゆる放課後デートってやつに浮かれていた。あまり人のいないファーストフード店。隣に座った先輩がシェイクを呑気にすすっている。その表情から、僕と一緒にいて楽しんでくれているのかはわからない。目の前のガラスには、先輩の高校卒業前に想い出をたくさんつくりたくて必死な自分が映っている。 「えー、俺山の気分」  先輩の言葉に僕はおおげさなほど肩を落とすが、すぐに気を取り直して「じゃ、じゃあ山なら行ってくれますか?」と食い気味に迫った。  たしかに海に行って先輩と泳いだり、かき氷を食べたり、「あの人かっこいいね」と言われる先輩の隣でちょっとした優越感に浸ったりしたかったが、しかたない。結局、先輩と一緒なら僕はどこだって楽しいのだ。だからどんなに意見が合わなくても、僕にとってはなんの問題もなかった。  僕が決死の思いで告白したときも、先輩は「うーん、今はそんな気分じゃない」と言ってへらりと躱した。その後、諦めずにお願いし続けて、先輩が折れてくれたときなんか涙が出るほど嬉しかった。  けれど、それってつまりしかたなくつきあってくれただけで、僕のことが好きというわけじゃないんだろう、そう思うたびに胸の奥がずんと重くなって、暗い気持ちになってしまう。 「僕たちって、三ヶ月くらいで別れそうですよね……」  先輩の高校卒業どころか、夏休みまでもつかも怪しい気がしてならない。 「いや、一ヶ月もてばいいほうだろ」  一ヶ月はすぎたと言うのに先輩は冷たく言い放つ。この様子だと、いつつきあい始めたのかも覚えていないのかもしれない。  それでも好きなのだ。  頭が良くて、かっこよくて、いろんなことにちゃんとこだわりがあって。いつも僕と真逆のことを言うくせに、なんだかんだそれでいいよと言ってくれるところなんかとくに、優しくてずるいなあと思う。  僕はそう言ってもらうたびに顔を綻ばせてしまう。緩んだ口元がバレないようにきゅっと唇を噛むけれど、なんでもお見通しの先輩が「犬みたいで可愛い」と言いながら頭をくしゃくしゃと撫でる。頑張ってセットした髪が崩れてしまうし、褒め言葉なのかわからないけれど、先輩の大きな手のひらが僕をさわってくれるのがただひたすら嬉しくて、僕はやめてくださいよと言いながらも頬を緩ませてしまう。 「はは、おもしろい」  そんな僕を見て、先輩はいつもそう言って笑う。
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