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「そ、それは古来より……」
「口伝ですかな。口伝というものは、時と共に真実を伝えそびれたり、別のものに変質したりしていくもの。もし教会で聖女を判定できる決定的な証拠があるのでしたら、まずそれをお示しください。そうでなくば、我々アラテガワ領民は領地から出る気はございません」
その領地は王族専用のお庭の一角ですもん。
教会だろうがお貴族様だろうが、私たちの領地に勝手に押しかけることはできないんですよ。
出ないって言ったら本当にね。
王族の皆様方の気が変わらない限り。
でもって、気が変わっちゃうと私たち魔王国でも他の周辺国でも亡命しちゃうわけで。
あらまあ、王族の皆様方の威信にも関わるので、私たちを貴族にも教会にも切り売りできませんな。
「神官長。あなた方が聖女に並々ならぬ関心を寄せ、またこの国の民のことを思ってくれていることに感謝します」
女王陛下の取り成すような言葉に、神官長が明らかにほっとした。
美声で労わられるように語り掛けられると、本当に昇天しそうなほど心地いもんね。
「また、アラテガワ準男爵の主張にも一理あります。そこで、もし本当に聖女について記した古代の文献が見つかり、そこに控えているアマネが聖女だと判明したならば、あなた方の主張を改めて検討いたしましょう」
はい、まずありえませーん。
ありがとうございます、女王陛下。
傾向と対策の打ち合わせばっちりです。
むしろそんなもんが出てきたら、完璧に偽物を疑うわ。
だって私じゃないのにさも私が聖女であるかのように書いてあったら、そらもうでっち上げの偽物ってことになりますもの。
鑑定したら分かりそうなものだし。
神官長も、女王陛下の言葉にまずいと思ったのか、もごもごと「そのような文献は」と言い訳をしておりますが。
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