episode1 平穏な日常は簡単に崩れるもんだ

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「おはようございまーす!」 「…おはようございます…」 生駒さんの名は生駒育造(いくぞう)さん。 我が町内班が属している自治会の副会長なのだ。 ゴミステーション命の生駒さんの手には、今日も箒とちりとり、バケツが。 バケツの中にはゴミに混じって曜日が違うってのに出されたプラスチックゴミが入っている。 「隣の町内のアパートの人らしいんだよ。わざわざこっちのゴミステーションまで来て捨てていくんだからどうしようもない」 「非常識ですよねー。さすがに10代でもわかるわー」 日夜ゴミステーションの平和と清潔と安全な利用を守るために戦っている生駒さんは、元小学校の校長先生。 私の小学生のときの教頭先生だったりする。 出世が遅くて校長先生になって1校で退職だったんだよね。 生駒教頭先生、温厚でいつもにこにこしてて、実は好きだったなー。 「これから大学かね」 「そーなんですよー。おっと、バスの時間が」 じゃあと挨拶して別れようとすると、斜め前の門から野瀬さんが出てきた。 「おはようございます」 着物姿で姿勢のいい野瀬(のせ)さんから挨拶をされては、こちらも返さねばなるまい。 「おはようございます!」 「野瀬さん、今日もお早いですなあ」 生駒さんよりも年上の野瀬富子(とみこ)さん。 いつもにこにこ小太り生駒さんの対極にいるようなばーちゃんである。 常に着物姿で細身で背が高くて、きりっとした表情を崩さない。 別にとんでもなく怖いってわけじゃなく、私も英ピも子供の頃はお邪魔しておやつのお菓子をもらったり、何より私なんぞは野瀬さんとこの絵画教室にまで通ったことがあるのだよ。 まあ、プロにはなれないよね、プロには。 そこは才能ってもんがさ……聞かないで。 でも、基本的なことは野瀬さんから教わったし、うちの弟は字があまりに悪筆だったがために母に首根っこ掴まれ野瀬さんの書道教室に叩き込まれ、今では超綺麗な字を書くようになっている。 お茶もお花も出来るって話も聞いたことあるし、ご主人いなくて一人暮らしだし、マジこの人何者?って思うけど、野瀬さんは野瀬さんである意味かっこいいおばあちゃんなのだ。
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