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「起立、礼」
ホームルームの号令に合わせて立つ瞬間、僕は思わず顔をしかめた。昨日のあかねの家の大掃除の手伝いは、運動不足の僕の体には負担が大きすぎたようで、全身が筋肉痛だった。
クラスメイトがぱらぱらと帰る中、僕はなんとなく残って、近くの席の友達と話をしていた。
視界の端であかねが一人で帰り支度をし、教室から出ていくのが見える。あおいが死んでからというもの、あかねはいつも一人でいた。
あかねが来週引っ越すということは、僕以外、誰も知らない。
僕は友達との会話を適当に切り上げて、教室を出た。
校舎の外に出ると、冬の風が痛いほどに冷たかった。
早足で歩いていくと、一人で歩く長髪の女子生徒の後ろ姿が見えた。僕は小走りで並びかけ、声をかける。
「あかね」
「なに」あかねは僕を一瞥して答えた。
「声くらいかけろよ。家、同じ方向なんだから、一緒に帰ろう」
「なんでよ」
「なんでって、前は一緒に帰っていたじゃないか」
「それは、あおいがいたときのことでしょう?あおいが私にくっついてきて、そのあおいにあんたがくっついてきただけ」
「そんな言い方……」
「あんたが好きだったのは、あおいでしょ?もう、一緒に帰る意味はないわ」
自分の中であおいへの恋心を認めていた僕は図星を突かれて答えに詰まった。それから、僕とあかりは押し黙って歩いた。あかりは毅然とした態度でさっそうと歩く。僕はというと、その少し後ろでおずおずと……。
しばらくすると、曲がり角の電柱にたくさんの花束が置いてあるのが見えた。
あかねはその電柱の前で立ち止まって、振り返る。
「あなた、あおいにお花、あげた?」
「あげたよ」
「そう」
あかねは視線を花束に向けながら言う。
「私はね、あげてない」
「え」
驚くほど冷たい声だった。
「なんでだよ。仲、よかっただろ?」
「私、あおいが死んだと分かったとき、心のどこかで良かったって思っていた」
そして、あかねは語りだした。
冬だというのに、僕の額には冷たい汗が浮かんでいた。
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