ふたご

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「知っての通り、私とあおいは幼いころからピアノを習っていた」  あかねとあおいは、習い始めたころからすでに頭角を現し、同じ教室で習っていた子をみるみるうちに置いてけぼりにした。小学校の中学年の頃には既に、地元のコンクールで彼女たちが優勝していないものは無くなっていた。ある時、ピアノの教室を変えようとしたら、その先生が泣いて引き留めたくらいだ。 「その頃は私も楽しかった。あおいのことをいいライバルだと思っていた。けれど、それは長くは続かなかった」  小学校高学年になったころから、あかねはあおいに負けることが多くなった。幼いころは、交互に取り合っていた優勝のトロフィーも、気づけばあおいばかりが手にするようになった。 「なぜって思った。同じ環境、同じ遺伝子、同じ体なのに、なぜって。けれど、それが才能ってものなのね。その頃から、ピアノが苦痛になってきていた」  中学校に入学してからは、あかねがあおいに勝つことは一度としてなくなった。それどころか、地方の大会で準優勝することもままならなくなっていった。 「私たち姉妹に注がれていた期待や羨望はすべてあおいのものになっていた。まるで、私はどこにもいなかったみたいに」  そして、今年。中学三年の夏にあおいは死んだ。居眠り運転との衝突事故で、多くの人が悲しんだ。 「もちろんショックだったし、涙も出た。けれど、どうしても考えてしまう。もし、交通事故にあったのが私だったら、みんなこんなに悲しんだのだろうかと——。でもどっちにしろ、交通事故にあったのはあおいで、これでもう比べれることはない。どうしても、安心している自分がどこかにいて、それは拭い去れないの」  すべての話を聞き終えた後も僕は黙っていた。  やがて、あかねはそっとその場を去り、あおいへの花束と僕だけがその場に残っていた。あおいへの期待、あかねの苦しみや重圧そのものである、その花束と。
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