454人が本棚に入れています
本棚に追加
/203ページ
「あの、俺にも心の準備ってものがあるんですけど」
しゃがみ込んで段ボールを持ち上げながら、稲本くんが口を尖らせた。
「たしかに無茶ぶりは悪いかなとは思ったけど。でも、この先のことを考えたら顔売っといた方がいいでしょ」
屈み込んで紙袋の取っ手に手をかけて答える。
「それに、ちゃんとしてたから大丈夫よ。営業なんだから度胸は大事じゃない?」
「無茶苦茶言いますね……」
「はいはい、細かいことは気にしない。車に荷物積んだら帰るわよ」
歩調を速めながら、通路を一直線に抜ける。
ちなみに運搬担当は塚原先輩である。
「館山さん、今日って会社戻ったらそのまま帰るんですか?」
トランクに荷物を積み込こんだあとで、ぽつりと質問を投げかけられた。
「ちょっと残ってる仕事があるから、片付けてから帰るわ。ごめんね」
「ちょっと期待してたんですけど。分かりました」
作業が必要な残っている仕事はない。
大きい仕事が終わったタイミングで、少しだけ自分の気持ちを整理したかった。ただ、それだけだ。
誤魔化してしまって、稲本くんには申し訳ないけれど。
最初のコメントを投稿しよう!