避けられない困惑

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「あの、俺にも心の準備ってものがあるんですけど」 しゃがみ込んで段ボールを持ち上げながら、稲本くんが口を尖らせた。 「たしかに無茶ぶりは悪いかなとは思ったけど。でも、この先のことを考えたら顔売っといた方がいいでしょ」 屈み込んで紙袋の取っ手に手をかけて答える。 「それに、ちゃんとしてたから大丈夫よ。営業なんだから度胸は大事じゃない?」 「無茶苦茶言いますね……」 「はいはい、細かいことは気にしない。車に荷物積んだら帰るわよ」 歩調を速めながら、通路を一直線に抜ける。 ちなみに運搬担当は塚原先輩である。 「館山さん、今日って会社戻ったらそのまま帰るんですか?」 トランクに荷物を積み込こんだあとで、ぽつりと質問を投げかけられた。 「ちょっと残ってる仕事があるから、片付けてから帰るわ。ごめんね」 「ちょっと期待してたんですけど。分かりました」 作業が必要な残っている仕事はない。 大きい仕事が終わったタイミングで、少しだけ自分の気持ちを整理したかった。ただ、それだけだ。 誤魔化してしまって、稲本くんには申し訳ないけれど。
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