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痛い目を見るかもしれない、と変な予感が一瞬脳裏をよぎりながらも、返信ボタンを押した。
『どこで?』
『俺んち』
『20分で着くから』
手早く支度をして、言葉通り20分後には誠が住むマンションのインターフォンを押していた。
『……はい』
「私。朱里だけど」
『開けとくから上がってきて』
玄関ドアの前で深呼吸をして、息を整える。
「……おじゃまします」
「どうぞ」
何度も訪れた、誠の部屋に足を踏み入れた。
見慣れたはずの空間なのに少し変わってみえるのは、もう自分が恋人ではないからだろうか。
「何か……用事、とか?」
ソファに身を沈める誠と距離を取って、リビングの端に立ち尽くしたまま訊ねる。
「ん、この前の……言い過ぎたなって思ってて。ごめん」
それをいうならお互い様だと思う。
「ううん、私こそ」
軽く頭を左右に振って答えた。
「でさ」
――来た、本題。
無意識に背筋がのびる。
「元に戻らない?俺たち」
真っ直ぐな視線を向けられた。
(え……っと、元サヤってこと?)
「やっぱり朱里のこと好きだから」
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