日常、プラスアルファ

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日常、プラスアルファ

戸枝商事。私、館山朱里の勤める会社だ。 遡ること二ヶ月前、直属の上司――松宮主任に呼び出しを受けた。 「お呼びでしょうか」 「あぁ、まぁそこにかけて」 無人の小会議室。 促されるまま、長机を挟んだ向かいのパイプ椅子に腰を降ろす。 「館山さん、勤め始めて結構経つでしょ?」 「はい……四年、ですね」 「でね、お願いがあるんだ」 と前置きをすると、主任は私の前に茶封筒を差し出した。 中身が分からない為、どうしても身構えてしまう。 ――異動?まさかクビ、とか? 良くない思いが頭をよぎったものの、いやいや、何もしでかしてないし……。と、すぐに思い直す。 「そんな固い顔しないで。悪い話じゃないから。まずは開けてみて」 「……はい」 のり付けのされていない封筒に入っていたのは、白い厚手の用紙だ。 「履歴書……」 「うん。彼ね、二ヶ月後に入社するんだけども、教育係を館山さんに頼もうと思って」 「はい……って、え!?」 「まぁ決定事項だからよろしくね。話は以上。それ後で人事部に戻しておいて」 にこやかにひらひらと手を振ると、主任は去っていった。 ――稲本祐太くん、O大卒。 履歴書の写真なので表情は若干固めではあるが、はっきりした二重が印象的な可愛らしい顔立ちだ。 写真を見る限りはいいコそう、その時はそう思っていた。あくまでも、その時は。
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