近づく距離

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「じゃあ、私は帰るから。ゆっくり休んでね。おやすみなさ……っ」 言い切らないうちにぐっと腕を引っ張られ、手早く扉を開けた玄関の内側へと連れ込まれた。 「俺、酒強いんですよ。酔ったふりしてた、って言ったら怒ります?館山さん」 腕を掴まれたまま、壁に身体を押しつけられる。 そう言えば、顔に赤みは差していなかった。でも顔に出ないタイプなのかと思ったし……。怒る怒らないの問題ではなくて、この状況は非常にマズイ。 「え……と、離して」 「嫌です」 否定された直後に、稲本くんの顔が眼前に迫る。唇への柔らかい感触と同時に、苦いアルコールの味が広がった。 「……っふ」 むせかえるような感覚に、思わず息が漏れる。 「俺の気持ち、分かりますよね」 ドクン、と胸が高鳴る。気持ち云々ではなく、このシチュエーションに対して、かもしれない。 「か、からかってるんでしょ?稲本くん入社したばっかりだし……私はただ指導してるだけで理由が」 「好きになったから。それじゃ不十分ですか?」
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