6人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女には僕に機械的な部分を見せないようにオーダーしてあるが、鶴の恩返しのように、不意にタイミング悪くこの部屋に入ってしまったら、悍ましいものを見ることになるのだろうか。
「君は本当にアンドロイド?」
思わず訊いてしまった。
「もちろん。人間に見えます?」
「見えます」
「それなら、良かったです」
彼女はそう言ってから、スーツケースをとりあえず部屋の隅に置いた。〈付属品〉を自ら運んで来たのだ。少なくとも予備のバッテリーと着替えは入っているだろう。いま彼女は上品なブラウスの上に薄紫色のフードコートを羽織り、膝下丈のフレアスカートを身に着けている。彼女にはとても合っている。
「服は何着持っているんですか?」
「二組です。今着ている外出用と、動きやすい部屋着があります」
「服を何着か買う必要がありますね」
「それなら提案があります。何着も服を買わなくても、ホログラムスーツが一つあれば毎日違った服装に出来ますよ」
ホログラムスーツとは、元々は服を購入する際に実際に服を着なくても気軽に試着が出来るように開発されたものだ。そのスーツの見た目はセパレートの水着のようなもので、身体に立体的に服が投影され本当にその服を着ているように見える。高級なスーツの中には触感を再現出来るものもあるらしい。ベーシックな服なら専用アプリで無料で着せ替えを楽しめて、課金すれば高級ブランドのファッションのデータを手に入れる事も出来る。
「そうか。部屋着だったらそれで全然いいですね。毎日コスプレできる」
「いま何て言いました?」
彼女の表情が一瞬引きつったように見えた。
彼女の年齢は31歳に設定した。もし彼女が人間の女性だったら、結婚して子供が居てもおかしくはない。まるで女優か女子アナのような、僕になんかに絶対に見向きもしない高嶺の花だ。そんな女性が僕だけのために存在し、僕だけに尽くすのだ。こんなに幸せなことはない。
最初のコメントを投稿しよう!